ハーメルン
ヴィレッジ 1919
笑ゥせばすてぃあん Aust.Ⅱ







 ドミトレスク城での取引の後、続いてハイゼンベルクの工廠へと向かう。
 彼の頼んだ品物がかなり大きく、それを取り出さねば他の村人や貴族への配送ができないからだ。
 馬は抗議の声を挙げていたが、私は何もしてやることはできない。
 なんだお前。
 私の体重にケチをつけようってのか?
 ケチをつけたくなるのは分かるが目を瞑ってくれ。
 食わないと勝手に身体が崩れ去るんだよぉ。

 改めて考えるとマザー・ミランダが恨めしい。
 いや、まあ、当然なんだが。
 その…なんというか…恨めしいの意味が若干異なる。

 なんだって"不死身のデブ"なんていうありがたくない上に無駄にキャラクターが立つ外見を私に与えた?
 適合者に与えるキャラとしては酷すぎないか?
 結構不遇なポジションだと思うぞ?
 少なくとも外見に関してはモローと並んでると思う。
 あいつもあいつで嘔吐癖ついちゃったから大変だけどさ。
 私も私で結構地味にメンタル削られるからね、この見た目。
 先月スペインの友人達と飯に行った時「ハンプティダンプティみたいだな、お前」って言われたのを未だに根に持っている。
 レコード調達を手伝ってくれてありがとう、でも許さん。



 そんなこんなを考えていると、荷馬車はやがてハイゼンベルクの工廠に辿り着いた。
 ゼェゼェと息を荒げる馬を労りながら、工廠の玄関口へと向かう。
 いつもならハイゼンベルクは取引の日、ここで待っているはずだが、今日は何故かいない様子だった。
 代わりにメモが貼ってあり、こう書いてある。

『よう、デューク。配達ご苦労さん。俺は今ちょっと実験で手が離せねえ。あの品を下ろすのには人手がいるだろうから、取り敢えず実験室まで来てくれよ。』

「実験室…ですか」


 私はメモにある通り、工廠の中に足を踏み入れていく。
 彼は特異菌に感染した後適合したものの、人格を捻じ曲げられて人間と機械を結合させるという悍ましい実験をするようになってしまった………
 ………けれども先のメモで分かるように、ぶっちゃけそれ以外はあまり変わってないと思う。
 基本的には良い兄貴分そのままだ。
 あの爽快な笑顔や、インテリジェンシーな言動は今もなお健在。
 感染して若干老けた見た目になったが、外見のみでは本当に感染してるのか疑わしいほどである。


 そんな事を考えながら、私はやっと彼の実験室に辿り着く。
 彼は白衣に着替えて実験室にいて、ガラスの向こうにいる新しい"ソルダート"のテストを行なっているようだった。
 彼は実験室のドアが開くと、ハイゼンベルクは例によってあの人好きのする笑顔で私を出迎える。


「おお!セバスティアン!」

「デュークです」

「あ、悪い。今はデュークだったな。すまねえが少し付き合ってくれ。これから実験に移行するんだ。」


 多少新型"ソルダート"のお披露目に付き合ったところで私のスケジュールは変わらない。
 私がにこやかな笑みで頷くと、ハイゼンベルクは一層楽しげな笑みを浮かべてこう言った。

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