ハーメルン
ヴィレッジ 1919





 1919年8月
 ハンガリー
 ソルノク







 私はようやく分隊の最後列に追いついた。
 分隊は既に建物の影まで前進しており、通りの反対側に向かうべく機会を窺っている。
 通り全体が尖塔にいるであろう狙撃兵の射界に入っていて、このまま通りを横断するのは無謀に思えたが、あの尖塔を制圧するにはここを渡るしかない。
 列の先頭にいる軍曹は、拳銃片手に物陰から通りの様子を盗み見ている。


「こちらからじゃ、あの塔まで射角が取れない。誰か渡らないと…」

「おれが行きます!」


 今日は何があったというのか、いつもは危険を冒そうともしないモローがいの一番に手を挙げた。
 それも何の遮蔽物もない通りを渡ろうというのだから尚更怖い。
 軍曹はモローの志願を受け入れて、モローはあまり迷うことなく通りを一気に横断した。
 明らかに狙撃兵の配置に優位な通りにも関わらず、敵はモローに何らの攻撃もしない。

 その様子を見て安心したのか、トアデールという新兵がモローの次に手を挙げる。
 彼は我々と同じ村の出身で、出征した中では一番若い青年だった。
 既に通りを渡り終わったモローは尖塔に向けて小銃を向けていて、あとはトアデールが通りを渡るだけだ。
 軍曹はこちらからの発砲によってモローの位置を暴露させたくなかったのか、援護射撃はさせずにトアデールを横断させる。

 これが大変な間違いであった。

 狙撃兵は今度は通りを横断する兵士の存在に気がついて、精密極まりない射撃を喰らわせる。
 トアデールは頭を撃たれて、そのまま通りに倒れ込んだ。
 隠密な横断が困難になった事は明らかであり、軍曹はモローに全力射撃を命じ、分隊全員は各個射撃を行いながら通りを横断する事になる。
 幸い制圧射撃の効果があり、トアデールの他には誰も狙撃を受けずに横断に成功した。


「…クソッ!クソッ!トアデールがやられた!クソッ!」


 私は道路を横断し終わった後、激しく毒づきながら自身の小銃に弾を込める。
 トアデールが死んだのは誰の目にも明らかであり、彼の頭は半分吹き飛ばされていた。


「アッペルフェルド!モロー!こちらで援護するから、尖塔の狙撃兵を制圧しろ!」


 軍曹に命じられ、私とモローは尖塔の死角から狙撃兵に接近して行った。
 途中にトラップや伏兵がいない事を確認しつつ、通りのこちら側にある遮蔽物を利用して接近して行く。
 狙撃兵は軍曹達との銃撃戦に夢中のようで、我々2人の接近には気づいていないようだった。

 2人ともかなり接近すると、尖塔が思ったよりも高くはない事に気がついた。
 そこで塔の中に入っていくよりも、確実で安全な方法で狙撃兵を制圧する事にしたのだ。
 我々は腰のベルトから柄付き手榴弾を取り出すと、お互いに確認をし合った。


「着火から爆発までは?」

「えと…たしか4〜5秒」

「そうだな。よく狙って投げろ。外したらこちらに落ちてきて爆発するぞ。…準備はいいか?………よし、今だ!!」


 2人とも手榴弾をうまく狙撃兵のいる空間に投げ込むことができた。

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