開幕前夜
拝啓 お母さんへ
あのね!重大ニュース!私にね!トレーナーさんができたの!それでね!なんと!トゥインクルシリーズの開幕戦を迎えることができます!いっぱい勝ちをプレゼントするから、早く元気になってね!
よし!送信っと、
トゥインクルシリーズに向けてウララ(ハルウララのあだ名)と練習メニューを練り直し、作戦を立てていると元気な送信ボイスが聞こえて来た。
「誰にメールしたんだ?」
「お母さんだよ!あのね!いっぱい勝つから早く病気なおしてねって!メールしたの!」
ウララは今トレーナー室のソファーでうつ伏せになりながら尻尾をブンブンふって嬉しそうに携帯を眺めている。彼女には今後の練習メニュー、戦術を伝えるためトレーナー室にきてもらった。
ウララと正式に契約を結んで一週間、彼女との間で、ささいな変化があった。まず、敬語をやめた。俺は敬語を使って適切な距離感を保つのが好きなのだが、なんか寂しい!と泣きじゃくられた為、敬語を取ることにした。続いて、彼女が思った以上に粘り強いことをしった。今までの練習メニューよりも明らかにきついことをさせているのに文句の一つも言わず、全てこなす。純粋に楽しんでいるらしいが、ここまで下手な物好きだとそれも一種の才能であると考えられる。
ちなみに、時速25キロで20キロランニングさせた後に、1000メートルのダッシュを5セット、時速50キロで走らせると言うのがメニューの内容になる。人間からしてみれば化け物級の速度だが、ウマ娘の中ではこれは平均よりも遅い、しかし、彼女の中ではおそらく限界の数値であり、本数もウマ娘の限界よりも少し少なめに設定している。これを朝夜行い。バーベルトレーニングを週3回入れると言う形で、筋力トレーニングを行っている。
フォームの改善も行った。後半の加速に備え、ストライドを前半と後半で変える走りだ。集団の中にいるときは、ストライドよりもピッチを、抜け出したときはストライドを大きくかつ大胆に走る。今までバラバラであった彼女の走りが少しづつ安定してきた。
「ウララ、ちょっといいかー?」
「なにー?トレーナー」
「お前、適正距離って知ってるか?」
「...テキセイキョリ?」
あー、やっぱりかぁー
キョトンとした様子で首を傾げ、興味なさげに彼女は再びスマートフォンに目を移した。
本来適正距離とは、トレセン学園に入学する際にきちんと決まるものである。しかし、一定基準を下回り過ぎた成績の場合、適正距離認定がなくなる、つまり、全距離不適切という診断を受けてしまうのだ。
「いいか、ウララよく見ろよ。」そう言って俺はウララにふたつの動画を見せた、片方は2400のターフ(芝)を走るウララで、もう片方は1400ターフを走るウララの動画だ。
「よし、動画も見たとこで、ウララ、何か気がついたことはあるか?」
「ふ、ふ、ふ、トレーナーくん、私を舐めないでくれたまえ!この動画には」
「そう、後半の伸びが明らかに1400の方がいいんだ。」
「あ!まだ!言ってないのに!ちょっと!」
なにか言っているがまあそれは無視するとしよう。そう。ウララには短距離が適正距離なのだ。3000メートルの長距離、2400メートルの中距離だと後半の伸びがないのに対し、1400メートル以下の短距離であれば僅かではあるが、後半の加速、すなわち末脚がコーナーを抜けたところで発揮されているのがわかる。ちなみに、これは本人にも自覚があるようだが芝よりもダートの方が走りやすいそうだ。トゥインクルシリーズの開幕戦には当然、ダートレースも用意されている。数こそへるが、まずは上位入賞をねらうところからだ。
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