ハーメルン
最弱と言われた彼女は

ウララの激戦が終わった後、その激戦を見たウマ娘ファン達がTwitterなどに動画を載せ、たちまちにウララとスマートファルコンの知名度は上がった。トレーナーの間でも、ウララをここまで育てた俺に対しての賞賛の声が度々上がっているようだ。俺は素直に、それらの変化を嬉しく思っている。ようやく、ウララの存在に周りが気がつき出した。
そして、ウララのレースから少し月日が経ち、ライスの皐月賞選考会があった。結果は4着、今注目のミホノブルボンが2着と3馬身もの差をつけてゴールを決めていた。
「ライスちゃんお疲れさまーー!」
控え室にウララと共に向かい、ライスの健闘をねぎらった。
「お疲れ、ライス。」
「あ、トレーナーさん....ありがと。」
俺の言葉にライスは少しだけ嬉しそうに微笑んでそう応えた。
ウララと同じように、ライスも敬語を外してもらいたかったらしく、俺はまあこの距離感もありかと感じ、喜んで了承した。
「はやかったねー!みほのぶりぼん!」
「ウララちゃん、ミホノブルボンさんだよ」
ウララが元気よく間違えたのをライスがすぐさま訂正した。
「まあ、俺も生で見てびびったが、確かにメディアで注目されまくってるだけあるわなあれは、クソほど速かったわ。」
ウララが興奮するのもわかる。それほどまでにミホノブルボンの走りは鋭く、速かった。まるで、群れることに意味はないと言わんばかりの、誰も寄せ付けないその逃げで、思わず鳥肌が立ってしまった。
だけど....
「ライスも、今日はベストタイムだったぞ。選考会も通ったしな。」
俺はそういってライスに今日のタイムラップを見せた。
1000メートルの通過から2000メートルまで、どれも練習の時より遥かに上のタイムで更新している。選考会では上位8人までが皐月賞本番に選出され、ライスは無事通過することができた。
タイムも予選も突破できたライスだが、その顔色は明るくはなかった。
「...不満か?勝てなかったことが。」
俺はそんなライスに、そう声をかけた。
「うん、不満だよ。ものすごく不満。でも、それ以上に」
そこでライスは言葉を区切って、羨むような目線を控え室のテレビに移した。そこには、何も映っていない。けれど、ライスの目には映っているのだろう。1番の輝きを纏った、彼女の姿が。
「羨ましかった。ブルボンさんの、輝きが。」
羨ましい。そう口にした彼女の感情は、きっとレースに出る彼女達にしかわからない。だから俺は何も言わずに、ただ頷いた。
「ライスも、あんな風に輝いてみたい。」
そう口にするライスの目はまっすぐで、これが、彼女が掴みたい景色なんだなと理解した。...だったら、俺がやることは一つ。
必ず、その景色をライスに掴ませる。
「つかむぞ、ライス。次の皐月賞、お前がとれ。」
その言葉にライスはうん!と大きく頷く。そんなライスを見て勝つゾォおおお!とウララが大きな声で叫んだ。
....あとで、お隣のトレーナーさんに謝っとかないと。
俺は心の中でそう呟いて、ライスの着替えを外で待つことにした。
ウララは着替えを手伝うとのことで更衣室にのこったため、俺は先に車に向かう。廊下をでて駐車場に向かう時、通りかかっていた控え室の出口が開いた。
.....ミホノブルボン。
異次元の逃げを見せた彼女が、今目の前にいる。
「....なんでしょう?」
しばらく俺が硬直していたことを怪訝に思ったのか、彼女はそう首を傾げた。

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