第9話 王城の愚か者たち
私の名前はラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。
エ・ランテルへの旅路の途中、私は本物の異形に出会った。いや、あの存在からすれば私の方こそ異形の虫けらに過ぎないだろう。
「いやぁ、すごい美人だったなぁ」
「何も言わずに立ち去るなんてかっこいい……」
「高名な冒険者だろうな……。もしかしてあれが噂の『蒼の薔薇』か?」
「いや、冒険者にしてはあの美貌はないだろ……どこかの姫君ではないのか?」
口々に私の従者たちがあの異形について語っている。何を言っているのだろうか、あれが人に見えたとでもいうのだろうか。
美しかったのは認めよう。立ち居振る舞いに人を惹き付けるものがあったのも認めよう。しかしあれは人ならざる者の美しさだ。あれが人の手で、人の設計図から作り上げることが出来るはずがない。
完全なる左右対称……一部の隙も無い髪の美しさや顔の造形。あれは神、またはそれに類するものがそうあれとして作り上げたもの以外の何物でもないではないか。
私のように父と母からの特徴を受け継いで作られては、絶対にあのような完全なる存在になりえるはずがない。
「ラナー様。守れなくてごめんなさい……」
私の犬が年相応の可愛らしさで頭を下げてくるので撫でてあげる。この私だけを頼り見つめてくる可愛らしい犬とともにこの国と心中するしかないとも思っていたのだけれども……。
「クライム。私たちは生き残ることが出来るかもしれませんよ」
一縷の望み、いや、一片の光明だろうか。それを彼女に見た。絶対なる存在、その慈悲を得ることが出来るのであればもしかしたら……。
♦
その後、私は無事エ・ランテルへと到着することができた。あの絶対なる存在と出会った後は驚くほど順調に行程は進んだ。魔物どころかネズミ一匹、鳥の1羽さえ出くわすことがなかった。
そしてエ・ランテルでの式典を終え、王都に戻るとあの絶対なる存在……名前はナーベ様と言うらしいが……その話題で持ちきりであった。
当然父であるランポッサ三世にも伝わっており、王女を救った英雄として冒険者組合を通して彼女は王城へと招聘されることとなる。
───そして現在
私は今絶賛、土下座の真っ最中である。
その存在がそこに現れた時、謁見の間の誰もが息を飲んだ。
艶やかな漆黒の髪、整った顔立ち、黒く切れ長の瞳、質素ながらも歴戦の戦士を思わせる灰色のローブも彼女が身に包めば美しさを際立たせる道具の一つのようで誰もが目と心を奪われる。
ナーベ様は王の御前だというのに跪きもせず、不遜な態度で周りを見回している。それにも関わらず咎めるものは誰もない。
それもそのはずだ……その場に呼ばれたのは人間ではないのだから。人間などを超越した存在であるにも関わらず人間の冒険者の振りをする存在、ナーベ様なのだから。
「よくぞ来た。冒険者ナーベよ。私はリ・エスティーゼ王国国王ランポッサである」
「……私はナーベよ」
まるで虫けらに仕方なく挨拶をするように尊大な返答をするナーベ様。そんな彼女を見て周りの愚かな貴族たちは口々に小声で話し出した。
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