ハーメルン
転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった
3話 その時歴史が壊れた
「なあいいだろ? 今晩食事に付き合ってくれよ」
「悪いわね、その時間も仕事なの。他を当たってちょうだい」
ガヤガヤと賑やかな酒場の隅で、女性店員がしつこく口説かれていた。
客入りも落ち着いてきたお昼過ぎ。手隙になった彼女を目敏く見つけ、客の一人が粉をかけ始めたのだ。
「おいおい、嘘はいけないな。その時間に君がフリーだってことは分かってるんだぜ?」
「……なんでアンタがそんなこと知ってるのよ」
「はっはっは、マスターから聞いたんだ」
「ちょっとマスターッ、なんで話しちゃうわけッ?」
カウンター奥に向かって非難がましく問うと、しれっとした顔で答えが返って来る。
「ふふ、いいじゃないか、こんなに情熱的に口説いてくれてるんだ。一度くらい付き合ってやったらどうだい?」
「お断りよ。私にそんな趣味ないわ」
彼女の反応はにべもない。
「そんな! 俺のどこがダメだって言うんだ!」
「いや、どこって……ねえ?」
本気で悲しそうな顔を見せられてしまい、彼女の気勢がやや削がれる。
そりゃあ彼女だって、魅力的だと言われて悪い気はしなかった。このお客に対しても、別段悪感情を抱いているわけではないのだ。
顔立ちは文句なく整っているし、金払いや態度もきちんとしている。忙しいときは無理に絡んで来ないし、彼女が本当に嫌がるような誘い方もしてこない。
世間一般の常識に照らし合わせてみれば、なかなかの優良物件と言えるのだろう。ときおり見せる艶のある仕草には、悔しいがドキッとさせられたこともあった。
だがそれでも――いや、だからこそ――この誘いを受けるわけにはいかなかった。いろいろ世間体が悪そうな気がするし、なんなら自分の方が道を踏み外してしまいかねない。それはもうアウトだ、間違いなく大問題。
よってここは、断固として突き放さなければならないのだ。
「頼む、教えてくれ! 悪いところがあれば直すから! 俺はやるときはやる男なんだぜ!」
だが目の前の必死なお客は、どうにも諦めてくれそうにない様子。
ゆえに――
「ふぅ……。じゃあ言わせてもらうけどね?」
「あ、ああ!」
「私がアンタの誘いに乗らない理由。それは――」
「そ、それは!?」
眼前に詰め寄ってきた相手に対し、彼女はその答えを言い放ったのである。
――アンタが『八歳の子ども』で……、しかも『女の子』だからよ、ルミナお嬢ちゃん。……ほら、片付けの邪魔しないで。
「……ですよねーー」
これ以上ない正論を叩き付けられ、銀髪ナンパ美少女(8)はカウンターに突っ伏した。右手に持ったミルク入りグラスが、なんともアンバランスな哀愁を誘っていた。
その哀れかつ可愛らしい姿に、見守っていた酔客たちから笑い声が巻き起こる。
「ぶはははは! またフラれたな、ルミナ! これで何度目だ!」
「先週もやってたから四回目だな。毎度毎度よく飽きないもんだ」
「あのへこたれない根性だけは俺らも見習わないとなあ」
「いや、実はあの娘、冷たく袖にされるのが癖になってるって噂も……」
「おいおいホントかよ。将来有望過ぎるだろ」
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