ハーメルン
性癖に正直に生きてたらヤンデレに追いかけられたんだが
【主羅統娘】の決意
ボクと彼の部屋を後にしたボクが始めたのは、世界の叡智へと飛び込むことだった。
魔族は体が魔力でできている。だからある程度はそのコントロールが可能だ。相手の理想の肉体に変化する淫魔、相手と同等の見た目と性能を得る
死出の鏡の悪魔
(
ドッペルゲンガー
)
などが良い例だろう。
ボクは更に先を行く。肉体を希釈し、広げ、魔力の粒となり、世界の叡智――魔力の海と直接一体化することができる。
勿論、危険な行為だ。いくら魂という楔があるとはいえ、肉体を魔力の海と一体化させるのは、世界そのものと同一化してなおも存在し得る無類の精神が必要になる。
ボクに出来ない訳ないけど、これまでやろうともしてこなかったことだ。それを今、行うのは……彼を、絶対に取り戻すため。
彼と手を繋ぐため。彼と一緒に笑うため。彼の手を引っ張るため。彼と――ずっとずっと、これからの未来を歩むため。
そのためだけにボクは行く。世界と同質化し、偏在し、文字通りあらゆる事象となって世界の
叡智
(
すべて
)
を体感する。
見つからない。見つからない。おそらくは神に次いで世界を見ているボクの視界に、彼の魂は映らない。
いや、魂だけじゃない。歴史、足跡、痕跡。『彼』が存在したという事実の数々が、人為的に消し去られ、その僅かな断片だけが見える。
まるで彼自身がそうしたかのようだ。でなければここまで徹底的に存在の証拠を消し去るなんてできない。けれど、どうして彼はそんなことを?
……考えるのは後だ。彼を見つけてから、その胸に飛び込んでから、また一緒になってから……彼と指切りした約束を果たしてからでも、遅くない。
世界を循環する魔力の海。それそのものとなったボクは、彼を探し続けることに没頭した。
見つけた。見つけた。あいつの所だ。
【煌天女帝】ヴァルガリエ・ディエラ・ドゥン・リエンジスカ。うるさくて、いつもボクを見下してて、口を開けば自慢話しかしないトカゲおばさん。
ボクは別にどうでもいいけど、あいつは変にボクに突っかかってくる。まったく、年寄りの嫉妬は本当に見苦しいのにね。ボクが優しくそれを指摘してあげても、トカゲおばさんは怒鳴り散らすばかりなんだ。
思考が逸れた。哀れみと、そして警戒から逸れた思考を、ボクは彼に集中させる。
彼はあいつのケバケバしい宮殿の中を疾走しているようだった。なぜか全裸だ。そしてすごい笑っている。
…………ひょ、ひょっとして、そんな趣味が……? いやいや、彼に限ってそんな……で、でも、彼が望むなら……その……ボクも、付き合ってあげなくも……
って、何を想像させるんだ! えっち! すけべ! へんたい! まったく、彼は変わらない! たとえ姿形が変わっても、肉体が変わっても、その魂はボクの知る彼のままだ。
……なんだかすごく
濃
(
・
)
い
(
・
)
感じがするけれど。彼って、あんなに光り輝いてたっけ? いや、勝てないとかそういうのじゃなくて、雄々しくて、逞しくて、なんだか逆らえない感じがするってだけで……
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