カティアの新技
カティアと二人、関所町の中央広場で気色悪々系妖魔と対峙していた。普段は露店商がいる広場は、深夜ということもあって閑散としていた。
サイズ感が狂いそうになるが、妖魔はかなり大きな鐘だ。町中に響かせようとすると、このサイズになるのだろうか。鐘表面の腐れデザインといい、えも言われぬものを感じるが……。これがキュビズム……。いやちがうか。
「この間戦った奴くらい体皮が硬い……。一太刀入れたけど、弾かれたわ」
『……斬れねぇじゃん』
カティアが、少し焦ったように言った。ふーん、そんなに硬いんだ。いや、防御力でダフに勝てるやついるの? やっぱ覚醒者かこいつ?
「「ギガガアァ」」
鐘は、重複した死ぬほど気持ちの悪い声をあげた。本物の鐘のように耳に残る高音が不愉快だった。
異様なデザインをしている凹凸が、複数付いた目を開いた。すべてが妖魔の目だった。
鐘の四方から妖魔の指が飛び出し、私たちが居たところを抉った。私たちのいる頭上の空が覆われるくらい降ってきた。こいつ何本指あるんだ。
同時に計36本の太腿サイズの太い触手が周りの建物に突き刺さり、鐘を空中に固定した。
とりあえず、乱移動しつつ飛んでくる触手を切り払う。硬い感触はあるが、細い触手の方は斬れないほどではないらしい。こんなに密集した妖魔の指見るのは、初めてではなかろうか。私がトライポフォビアだったら気絶必至である。うっとおしすぎ。でも、こんなの初めて……、ってなるか!
セルフ突っ込みしつつ、跳び上がって触手ジャングルジムに乗った。鐘の自重を支えている触手は、確かにゴン太で硬質な感じがした。脈動していて気持ち悪い。
カティアが言っていた硬さを確かめるべく、上下左右に立体的な軌道で攻撃を回避しながら鐘に近づいた。そして、剣先を立てて目の一つに突き込んだ。
『! かってぇ!』
甲高い音がして弾かれた。うそだろ。目ん玉だぞ。
鐘は瞬きする様子すらなかった。
「グガァァァ!」
好機とみたのか、鐘が割れ本来鐘の空洞になっているはずの部分が大きく開いた。歯が一杯並んでいた。魚かよ。
「オリヴィア!」
『大丈夫、大丈夫!』
大剣が弾かれた勢いを利用してかわし、心配するカティアのもとへ、くるくると回りながら足場を辿って戻った。
戻るついでに足場も斬りつけてみたが、本体に近づくに連れて硬くなるらしい。カッチカチだった。本体も足場にしていた柱も、限界まで加速しないと斬れないかもしれない。
「かたい」
「オリヴィアでもダメなの……。くっ、どうすれば……」
雑に襲いかかる触手を払いながら、カティアへ端的に報告した。
町のド真ん中だが、鐘の大きな音が幸いして、人が出てくる気配はなかった。それにしても、最初に飛んできたゴキブリの卵みたいなやつなんだったんだ。
そんなことを考えていると、鐘の下口が閉じ、大きく膨れ中身が飛び出した。うわ。完全に産卵だこれ。いったい私たちは、何を見せられているんだ……。
「! なんなの!?」
『産卵だ!!』
せっかくなので口に出してみた。しかし、あまり気分は変わらなかった。
あちこちの建物じゅうに突き刺さったそれは、細かく振動していた。くっ、こいつらからも嫌な感じがする! ……いや、この感覚を冷静に考えると、これ普通に気持ち悪いだけだわ。こんなゴキ擬き妖魔を作ったやつのセンスを疑う。組織のおっさんだろうか、おのれリムトめ許さんぞ。
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