あなたの笑顔のために 前
「……はぁっ、はぁっ……!!」
ライアンとマックイーンが宝塚記念で戦った、その日の夜のことだ。
二人はトレセン学園に帰るや否や練習用コースへと出向いて、ナイター環境のなか模擬レースを行っていた。
「な……何てこと……私が、こんな……っ!」
――そして、二人とも思わず膝をつく事になった。
追いつけないのだ。彼女達が京都レース場で宣戦布告を受けた、オグリキャップの最大のライバルである、彼女に。
「こんなに、こんなに強いなんてっ……!!」
既に二人とも疲労困憊だ。まあ、つい数時間前までレースをしていた身体では当たり前なのだが、それでも移動時間中に本人達はある程度体力を回復させていた自信があったようだった。
……それを、悉く打ち砕かれた形になる。
「……き、聞いてないわよ……」
唖然しているのは隣の、ついさっきまで「この私と同じ『王』の異名を持つ先輩の実力が、ようやくお披露目って訳ね!」とか何とか息巻いていたキングだ。そしてその後ろで、取り巻きーズはじめチームメンバー全員が同じように表情を驚愕に染めていた。
とは言え、今となっては本気の彼女を見たことのあるチームメイトも少ないので、当然の反応ではあるのだが……この様子では誰も動けそうにないので、俺は立ち上がり、タオルと水筒を持って彼女の元に駆け寄る。
「ご苦労さん。全力で走ったの、久しぶりじゃないか? どこか異常は?」
「あら、トレーナーさん。いえいえ〜、特に問題はありませんよ〜。
基礎トレーニングだけじゃなくて、たまに走ると気持ちいいですね〜」
そう、まるで疲れていない。
それはそうだ、彼女の強みはその膨大なスタミナ。鋭い脚のキレはなくとも、序盤に巧みに好位置を抑えた上で後半から大逃げの如く息の長いスパートを掛ける、その粘り強さにある。
「これがっ、『永世三強』……!」
併走中において、その末脚を使ってもまるで差し切れなかったライアンが、絞り出す様に呟いた。
そうだ、これがかつて空前絶後の競走ウマ娘ブームを創り出した、「永世三強」の水準だ。
「これが、『魔王』スーパークリーク……!」
続けて、同じ先行策での走りにおいて、位置取りからスパートまで全ての観点から敗北したマックイーンが震えた声でそう呻く。
その通り、これが当時ステイヤーとしては並ぶ者のなかった彼女、スーパークリークの実力。
――そして、その彼女ですらクビ差まで追い詰められた、オグリキャップの指標だ。
「うふふっ。二人ともこの私に逆らうなんて、ダメな子ねぇ〜♫
……年末までに、私に追いつけるかしら?」
……悪役ロールまで、当時のまま堂に入ってるのには驚いたが。
※※※
――それから、数ヶ月が過ぎて。
「さぁさぁ、皆さん、お夕食の時間ですよ〜。
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