メジロを創る者 前
「……よし。体調は大丈夫そうだな」
控室から連絡通路を経て、地下バ道に出て。
そこで俺達チーム全員が、今日のレースに出走する勝負服姿のライアンを見送っていた。
「あとは、気持ちの方だけど……どう、やれそう?」
「ぉぇ……いやもうホント……メリー有馬記念……death……」
――全然ダメだった。
予想以上に気負ってしまっているようだ。それこそクリスマスのあたりからそわそわしているとは思っていたが、元々がガラスのハートを持つライアンである。
「だってあのオグリさんのラストランですよ? そうでなくてもスター勢揃いの大変なレースなのに。
その上、日本中のウマ娘ファンがみんなオグリさんの勝利を望んでて……それを叩き潰して勝たなきゃいけなくて。
心臓に、ちっちゃいダンプを乗せてる感じです……ぉぇぇ……」
これはちょっとマズいかもしれないな。どうにか持ち直さないと勝負どころじゃなくなってしまう。
これまでの大舞台で彼女もプレッシャーには慣れてきたように思っていたが、確かに言う通り今回の有馬記念は、ただのG1レースとはまるで訳が違う側面がある。
なにせキングやウララの時のおよそ1.5倍強、十七万人以上の観客が今日、この中山レース場に押しかけているのだ。
「……でも」
そう思って、トレーナーとして何か言ってやろうとしたその時。
「でも、あたしは勝ちたくて、ここに来たんだ」
俯いていたライアンが、顔を上げた。
額には既に汗が浮かんでいて、目をそわそわと泳がせながらも……それでも唇を噛み締めて、彼女は顔を上げていたのだ。
「あたしには、勝たなきゃいけない理由があるんだ。
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