ハーメルン
君と一緒に歌いたい
少年は少女に告白したい

 ただただ目を丸くする彼女。当然だ。出会ってまだ間もない僕に告白されたのだから。それでもまくし立てるように、想いを伝えるために言葉を綴る。

「最初は僕の勝手な一目惚れでした。でも、それから街で声をかけてもらえて。ここで誰かのために一生懸命に練習するあなたを見て。幼馴染みのために必死に悩むあなたを見て」

「僕は、そんな一歌さんのことがもっと好きになりました。だから、お願いします。僕と付き合ってください」

 頭は下げない。そうしたら逃げられてしまうような気がしたから。彼女の目を見てしっかりと伝える。なにを言ったかなんて既に理解していた。

「ど、どうして私なの? 私より咲希の方が一緒に居て楽しいし、穂波の方が面倒見がいいし、志歩の方がしっかりしてるし……」

 それでも彼女は、迷った。言葉を濁した。それでも僕は諦めない。

「そこが、一歌さんの凄いところですよ」
「えっ?」
「ちゃんとみんなの事が見えてる。それにちゃんと自分の意思を持ってる。僕はそんな一歌さんの事が、大好きなんです」

 彼女にこれまでどんな苦労があったのか知らない。彼女達とこうして結成するまでどんなに辛いことがあったなど、僕にはわからない。知ったところで僕が関われる問題じゃない。

 それでも彼女は、みんなの事をちゃんと見て、考えて、自分で答えを選んだ。だからその結果が3人を繋ぎ止めた。きっかけは確かに咲希さんだったかもしれないけれど、僕にはそう思う。なにも知らないからこその妄想。そこまでは口にしなかった。

「だから、もう一度言います。僕と付き合ってください」
「七緒君……ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいよ」

 彼女は微笑んだ。言葉を交わしたあの日のように。

「でも、ごめんなさい」

 しかし告げられた事実は残酷なものだった。笑顔は申し訳なさそうな表情へと変わり、頭を下げられる。その深さは最敬礼のそれを越えていた。きれいな黒髪が床に届きそうなほど。

 これが現実。受け止めなければならない。彼女の願いを、叶えなければいけない。

「……そうですか。わかりました。すみません、こんなこと言っちゃって。忘れてください」

 頭を軽く振って気持ちを切り替える。未練がましいかもしれないが、彼女の最初の願いは叶えられていない。それを伝えるために、言葉を続けた。

「でもギターはこれからもお教えします。まだ一歌さんの最初のお願いは、終わってませんから」
「あ、うん……そうしてくれると嬉しいな」

 話題が逸れたからか彼女は顔をあげ、少し気まずそうに答えてくれた。ここから先、こんな関係で演奏を続けていくのだろうか。今はぎこちなくても、時間が経てば忘れ去られる。良くある過去のひとつとして消費される。
 彼女には、それより大事な目標があるのだからここで止まってほしくない。自分で乱しておきながらも考える、なんとも勝手な想い。

 こうして、僕の初恋は、終わった。

「休憩時間、とらせちゃいましたね。僕は受付に戻ります」
「あ、ま、待って!」

 スタジオを後にしようとした時、背中に声をかけられる。そこには胸の前に手を握りしめ、なにかを決意した彼女の姿があった。

「私の話も、聞いてほしいな……って」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析