少年は救護に勤しみたい
咲希さんと穂波さんとの一件があってから暫く経った後。学校終わりにお店の手伝いをしていると、Leo/needの皆さんがやってきた。
「いらっしゃいませ、Leo/needの皆さん」
「こんにちは」
「その、どうも」
「あ、はい、どうも……」
それぞれの見知った顔に挨拶をして、一歌さんには少し目を逸らす。友達から、とは言ったもののこちらの想いを打ち明けた以上、その相手を今まで通り見ることは出来なかった。
あくまで店員とお客さんの関係だけど、僕にとってはプライベートも同じ。気まずいのは一歌さんも同じで、早く練習に入って邪な想いを消してしまいたかった。
そんな中、逸らした視線の先にいた咲希さんに目が映る。顔がこの前見た時より赤くなっていて、どこか上の空みたいに見えた。
「あの、天馬さん。顔、赤いですよ?」
「えっ? あっ、気のせいだよー。チーク塗りすぎちゃってさ」
「そう、ですか」
反応が鈍いことを見逃さなかったけれど、受付の作業がまだ残っていた為追及は出来なかった。まあ、何かあっても3人の幼馴染みがいるから大丈夫かな。
受付の仕事を終えて、4人の練習を見るために僕もスタジオへ入る。それぞれのチューニングを終えて、個人練習に移るかというところで。
「やっぱり咲希ちゃん、顔赤いよ? 大丈夫?」
「大丈夫! 明日はみんなで天文台に行けるって思ったら、熱くなってきちゃってさ」
「本当に? 前みたいに無理してないよね」
「もう、しほちゃんも心配性なんだから〜。ほら、元気元気!」
穂波さんも心配になったのか声をかけていた。ついでに志歩さんまで心配しているあたり、僕の知らないところでも何かあったんだろう。
ついこの間倒れたばかりなのも大きい。それでもガッツポーズをとって笑顔を見せる咲希さんは健気で、どこか無理をしているように見えた。
「皆で天文台ですか。なら、今日はしっかり決めないとですね」
「うん! だから今日は通しで合わせて志歩ちゃんに褒めてもらうんだ!」
Leo/needの中で一番技量の高い志歩さんが、今の皆の指標になっている。現に彼女の耳は肥えており、意識も高い。教官としては素晴らしい人物だ。
「……じゃあ、行くよ」
これ以上の問答は不要と言わんばかりに、志歩さんの合図で頭からの通し練習が始まった。
今はまだ上手い下手というより、上手い人に合わせられるかのお話。
全体の一体感を持たせる基本となる部分だ。ここが出来なければ、そもそもバンドとしての音色が機能しない。
「(うん、皆しっかり合わせられてる)」
まだ少ししがみついてる感じは取れないけど、ズレも目立たず演奏が続いていく。最初は音を出すのにも必死だった人達の成長を噛み締めながら聞いていた。
そうしてアウトロまで弾き切り、納得の表情を浮かべる一歌さんと志歩さん。
「七緒君、どうだった?」
「うん。問題ありませんでした。日野森さんはどうでした?」
「最後までズレなかったし、特に咲希がすごく良くなってた」
「よかったね咲希ちゃん!」
「あ、うん……」
ストイックな彼女も褒めるくらいのことがあったのに、反応が薄い咲希さん。
肩で息をしていて、目を閉じている時間の方が長い。明らかに異常があるとその場にいた全員が感じ取った。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク