ハーメルン
君と一緒に歌いたい
少年は少女に尽くしたい


 その日から、時おり一歌さんは店を訪れるようになり志歩さんと一緒にギターを教えていた。そして僕としては、彼女とただ一緒にいられる時間が嬉しい。
 しかしそれ以上に彼女の技量向上の願いを叶えるのが最優先である。そして今日も彼女達はスタジオを訪れたのだが。

「あの、この前はすみませんでした! せっかく心配してもらってたのに、あんなことになって」

 僕の事を見るやいなや、申し訳なさそうに頭を下げる金髪の少女。今日は彼女も一緒らしい。街で楽しそうにしていた様子とのギャップで、むしろこちらが申し訳なくなってくる。

「いえ、気にしないでください。えっと、今日は大丈夫なんですか?」
「はい! しっかりお休み貰ってバッチリ治してきました!」

 そういって笑顔を浮かべる彼女の空気から伝わってくる、大丈夫という想いにこちらも自然と笑顔になる。

「それならよかった。そういえば自己紹介がまだでしたね。星乃さんにギターを教えている、衛藤七緒といいます」
「天馬咲希です! よろしくお願いします!」
「(天馬? どこかで聞いたことがあるような)」

 天馬という名前に若干の心当たりを覚えつつ、練習を開始する。志歩さんが咲希さんを、僕が一歌さんを見ることとなった。

「えっと、今日もよろしくお願いします」
「ん、お願いします。今日は僕が昔にまとめたノートとか持ってきたので、参考がてらにどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」

 と言っても男のノートなのできれいでもなんでもなく、箇条書きと一番目につくところに一番大事な事を書いてるい程度。それでも彼女は少しでもなにか吸収するためにと食い入るように読んでいた。

「とにかくいろんなジャンルの曲を聴きまくる。1日1曲、2日で3曲マスターする」
「あの、声を出してまで読まなくても」
「あっ、すみません!」
「なになに? いっちゃんなんのノート読んでるの?」

 シンセの設定をしていた咲希さんがその声に気付いて、興味本位のまま一歌さんが読んでいるノートを覗き込む。

「すごーい! これ全部七緒くんが書いたの?」
「まあ、はい。すみません汚い字で」
「そんなことないよ。ほらほらしほちゃん見て! いろんなこと書いてあるよ!」

 自己紹介程度でしか話していないが、咲希さんはとてもフレンドリーな人で接しやすい。いきなりこちらのことを名前呼びしているが、別段悪い気はしなかった。

「本当だ。って言っても咲希じゃギターのこと全然わかんないでしょ」
「えへへ。でも見てるだけで楽しいし」
「そんなこと言ってないで練習始めるよ。ほら一歌も、ノート貸してもらえるんだから後でも読めるでしょ。スタジオだって無限に借りられる訳じゃないんだから」
「う、うん。そうだよね」

 そんな彼女の渇の利いた声によって2人は自分の楽器に触れる。

 そんな彼女達の結成経緯を聞けば、3人は幼馴染みらしく、昔のようにバンドを一緒にやりたい、という願いで咲希さんが半ば強引に一歌さんを、そして志歩さんを巻き込んで現在に至っているそうだ。

「──♪ ───♪ ──♪」

 楽器の音色に耳を傾けながら分析。実際昨日の今日、という状態で劇的な向上は見られない。それこそ日野森さんのベースが安定しすぎているせいか逆に浮いて聞こえるほどに。

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