ハーメルン
君と一緒に歌いたい
少年は内容を例えたい

「ごめんね、急にこんなこと話しちゃって。やっぱり、誰かに聞かせることじゃなかったかも」

 語り終えた一歌さんは申し訳なさそうに謝ってくる。しかし僕はそれに対して首を横に振った。

「いえ、話してと言ったのは僕ですし、いち、星乃さんは悪くありません。それより、楽になれましたか?」
「……ごめん、ちょっとそれはわからないかな」

 どうやら人に話す程度で解決する問題じゃなかったらしい。まあ、そうでもなければ演奏や態度として表れないだろう。ましてや関わって間もない僕に相談してくるレベルだ。そこまで参っているのだと普通に考えれば誰でもわかる。

「私は、どうすればいいんだろう……」

 再び俯く彼女。本来ならその横顔に見とれていたかもしれない。しかしそれよりもずっと気になることがあった。

「どうすればいい、じゃなくて、どうしたいんだろう、って思った方がいいですよ」
「えっ?」

 いつかの台詞の使い回しのように、僕は口を開く。

「前に言いましたよね。正しいことより自分がやりたい事を優先して考えてくださいって」
「あ、うん。でもあの時は途中で終わって、志歩はなにかわかってたみたいだけど。ごめん、もう少し詳しく言ってくれたらわかると思うから、説明してくれると嬉しいな」

 言葉のままの意味だけど、と思いつつもそう考えられない辺り相当思い詰めているんだろう。悩みの大きさを再認識しつつ、僕は例え話を引っ張り出した。

「星乃さんの好きな食べ物ってなんですか?」
「えっ? 焼きそばパン、かな」
「焼きそばパン……じゃあ、星乃さんがある旅行先でお昼ご飯を買いにパン屋に行ったとします」
「うん……うん?」

 急な話題の転換に戸惑っているけど、勢いに任せて譬え話を続ける。

「そこのお店は始めて行ったお店で、当然なにを頼めばいいかわかりません。しかも財布の中はどれか1つしか買えないくらいのお金しかありません。
 二度と来ることも難しい時、星乃さんはなにを買いますか?」
「えっと、焼きそばパンかな。ひとつしか買えないなら、好きなものがいいし」

 少し悩んだようにも見えたが、結論は意外にも早かった。しかしこの例え話はここからが本題だ。

「では焼きそばパンのとなりに、当店人気ナンバーワンと銘打たれたカレーパンがありました。
 テレビでも紹介された、と広告も貼られています。そんな状況でも、星乃さんは焼きそばパンを選びますか?」
「うん。だって焼きそばパンが好きだから。カレーパンは選ばないかな」
「それで後悔したりは?」
「たぶん、しないと思う。だってそのお店の焼きそばパンだって、味付けも少し違ったりするだろうから」
「つまり、そういうことです」
「……えっと?」

 話が二転三転してもはや原型を留めていない。むしろ逆にわかり辛くなってしまっていた。

「つまり、周りの評判とか気にしないで自分のやりたいことを選べば、後から後悔はしないって話です。
 なにより、選ばないまま引きずるのはもっと辛いことです。迷ってばっかりじゃ、手を伸ばしたくても伸ばせないでしょうし」
「あっ」

 その言葉に思い当たる節があるのか、一歌さんは小さく呟いた。それがなんだったのか僕にはわからないものの、彼女にとっては確かなきっかけだったのだろう。

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