ハーメルン
リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐
第10話:新人トレーナー、警戒を促す
次の未勝利戦に向けて行った、真夏のトレーニング。
それはたしかな効果をウララにもたらし、ラップタイムを測っていた俺は思わずストップウォッチの画面に疑うような目を向けてしまう。
(予想以上に仕上がってきたな……)
試しにメイクデビューと同じ距離をウララに走らせてみたところ、タイムが7秒近く縮まっていたのだ。
アクシデントで失速した分を除けば実質3秒程度の短縮だろうが、メイクデビューで1着を取ったチーフパーサーの勝ち時計が1分16秒62である。それをウララは1分13秒56という数字を叩き出したのだ。
一口に3秒の短縮といえば大したことがないように思えるが、ウマ娘の速度で3秒あれば18バ身近くの差を詰めることができる。これは距離に直せば45メートル弱になるため、かなりの短縮といえるのだ。
妨害する相手もおらず、バ場も良で天気も良いという条件だが、スタミナの消耗が激しい真夏にこれだけのタイムが出るのはウララが頑張ってきた証拠だろう。
フォームの無駄を削り、カーブの曲がり方を練習させ、スタミナや速度をつけさせる。やってきたことを言葉にすればそれだけだが、それらが積み重なった結果がタイムに表れるのだ。
もっとも、メイクデビューの時でさえレコードには届かないタイムである。メイクデビューの時と比べれば体が仕上がっているのはウララだけではない。他のウマ娘も同様にタイムを伸ばしているだろう。
ここから更にタイムを短縮させるとなると、ここ一ヶ月以上の努力を長期間積み重ねていく必要があった。体が仕上がるにつれて、タイムが劇的に縮まるということはなくなるのだ。
たとえるならロールプレイングゲームでレベル1から10までは簡単に上がっても、それ以降は必要となる経験値が増えてレベルアップが緩やかになるようなものだ。1匹倒せば大量の経験値をくれるような存在もいないため、これからも怪我をさせずにこつこつ鍛えていくしかない。
「はふぅ……びゅーんって走れて楽しかったし気持ちよかったー! トレーナー! タイムはどうだったのー?」
短距離を走り終えたウララだったが、スタミナがついたからか以前と比べると余裕がある。全力で走り切ってなお、スタミナに余裕が出るようになったのだ。
(この調子なら短距離だけじゃなく、マイルもいけるかもな……)
俺は夏の日差しで肌が焼けたウララを見て、そう思った。肌の頑丈さも人間とは異なるのか、真っ黒に焼けてしまった俺と比べてウララの肌には白さが残っている。それでも二の腕にくっきりと日焼けの跡が残っているウララの姿に、俺は言葉にできない喜びがあった。
「ああ……よく、頑張ったな……良いタイムだ……」
まだレースで結果を出したわけではないが、ウララの努力を見てきた俺は思わず涙で瞳が潤みそうになった。
好きこそものの上手なれという言葉もあるが、ウララは毎日のトレーニングに弱音を吐くこともなく、むしろ楽しそうに乗り切って見せたのだ。
やけに長い階段がある神社を見つけたため脚力と根性を付けるためにウララに走らせてみたり、市民プールに連れて行って好きなだけウララを泳がせてスタミナをつけさせてみたり、真夏の炎天下にダートコースを走らせてみたり、不良バ場でも走れるよう敢えて雨の中で走らせてみたりと、思いつく限りのことをやってきた。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/8
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク