ハーメルン
リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐
第12話:新人トレーナー、涙を流す

 夏を過ぎ、季節が秋めいてきた10月の半ば。

 今日はウララの4戦目、東京レース場で未勝利戦が行われる日だ。俺は以前と同じようにウララを連れて東京レース場まで来たものの、それまでは普段通りだったウララの様子がおかしくなっていることに気付く。

「ウララ? どうしたんだ?」
「んー……なんだろー。なんかね、落ち着かないんだー」

 ウララは何故か小さく体を震わせていた。それを見た俺はまさかと思ってウララの額に手を当てるが、熱発を起こしている様子はない。

 ウララに一声かけてから口を開けさせて口内を確認したり、首回りに触れたりしてみるが、喉や扁桃腺が腫れているようなこともなかった。

「どこか体におかしなところはないか?」
「ううん、今日もぜっこーちょーだよ。でもね、なんだか落ち着かないの」

 そう話すウララは耳を小刻みに動かし、尻尾も忙しなく左右に揺れている。普段通り笑顔を浮かべているものの、それがぎこちなく見えるのは気のせいではないだろう。

「体調が悪いってわけじゃなさそうだな……緊張してるのか?」

 俺はウララの腕を取って脈拍を確認するが、脈拍はやや速い程度で問題があるとは思えない。これまでウララがレースに臨む際の様子を思い起こす限り、緊張するような性格でもなかったはずだが。

「きんちょー、なのかな……なんかね、すっごく走るのが楽しみなの。うずうずして、バーンッて!」
「走るのが楽しみなのはわかるけど、最後の擬音はよくわからんぞ……本当に体調が悪いわけじゃないんだな?」
「うんっ!」

 体調が悪いのならば棄権することも視野に入れるが、ウララの様子を見た限り体調自体は本当に良いようだ。かといって緊張しているわけでもない、となると。

(……武者震い? ウララが?)

 まさか、と俺は思う。しかし体調不良や緊張で震えているわけではないというのなら、それぐらいしか思い当たらない。

「ウララ、落ち着いて深呼吸をしろ。とりあえず5回だ。それが終わったら、次は3秒でいいから全身にぐっと力を入れてみてくれ」
「うん……すぅー……はぁー……」

 俺の指示を聞き、ウララはゆっくりと深呼吸をする。そして深呼吸が終わると全身に力を込め、3秒が経ってから脱力した。

「どうだ?」
「落ち着いた……かも?」

 ウララは自分の体を見下ろしながら言う。俺は膝を折ってウララと目線の高さを合わせると、意識して笑みを浮かべた。

「もしもまた震えそうになったら深呼吸をしたり、体に力を入れてみるといいぞ。そうすれば落ち着くからな」
「うんっ! わかった! それじゃあトレーナー、わたし行ってくるね!」
「おう、楽しんでこい」

 着替えのために控室へ向かうウララを送り出し、俺は観客席に向かう。

 1着になってほしいという気持ちは変わらずあるが、俺ももう開き直った。成すべきことを成していれば、結果も自ずとついてくるだろう。
 ウララが武者震いを起こしているのが気にかかったが、ウララなりにレースに対する思いに何かしらの変化があったのかもしれない。

 俺はそんなことを考えつつ、まずはパドックの観客席に向かう。今日出走するウララのライバルウマ娘達の様子を観察し、少しでも情報を得ようと思ったのだ。

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