ハーメルン
リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐
第18話:新人トレーナー、悪い子におしおきする
ウララの育成に加え、ライスの担当も務めるようになって五日あまり。
この五日間は正直なところ、これまでとは比べ物にならないほどの勤務状況であると言える。
ウララとライスのトレーニングを行うのは、放課後から日暮れにかけての時間である。冬が近づくこの季節は日暮れが早いためナイター設備を使用してのトレーニングも含め、平日だと大体一日あたり3時間から4時間程度。これが土日になるともっと長時間、トレーニングのために時間を取る。
すなわち、それ以外は俺が自由に使える時間でもあった。トレセン学園から回ってくる仕事を可能な限り手早く片付ければ、空いた時間はウララとライスの育成のための情報収集や研究に使えるのである。
同期の連中に土下座って情報回してもらって、もらった情報を精査して、ライスの育成に使えそうなものを選別して、駿川さんからもらったライスが出走したレースの映像をメイクデビューから菊花賞に至るまで穴があきそうになるまで見続ける日々。
当然、並行してウララの方も手を抜かない。ウララを今後出走させるにあたりどんなトレーニングを積ませて、どのレースに出すか。どのレースならばどんなライバルが出てきて、どんな戦法を得意としているか。
様々な情報を片っ端から洗い出し、役に立ちそうな情報はパソコンでまとめて印刷してファイリングし、家に持ち帰って読み返すという日々だった。
残業をし過ぎると駿川さん辺りから注意が入るため、自助努力という名のサービス残業である。前世だと残業なんてクソだと思っていた気がするが、なるべく早く情報をまとめて育成方針を立てなければライスだけでなくウララの育成にも影響が及びかねないのだ。
だが、まだまだ終わりそうにない。というか芝のレース、マジで選手層が分厚過ぎる。その分、集めなければいけない情報が多すぎて、てんやわんやのしどろもどろだ。
「あー……野菜ジュースと栄養ドリンクのチャンポンが胃と脳に染みるぅ……」
トレセン学園の購買部で売られていた栄養ドリンクを箱単位で購入し、健康のために買った野菜ジュースとまとめて飲みながら呟く俺。もちろん、用法用量はきちんと守っている。トレーナーが倒れたら洒落にならないからね。でも栄養ドリンクって疲労感は軽減しても疲労は取ってくれないんだぜ? ふとした拍子に疲労が襲ってくるもん。
俺は日曜日の日の出前からトレーナー用の共用スペースを借りてウララとライスの育成に使用する情報をまとめていたが、10時になった段階で切り上げた。今日は日曜日だから、これからウララとライスのトレーニングがあるのだ。
ただし、今日は二人にトレーニングをさせるつもりはない。私服で俺のところに顔を出すよう言ってある。長い練習時間を取れる休日ではあるが、今日のところは少々企み事があるのだ。
「あっ、トレーナー! おっはよー!」
「お、おはようございます、トレーナーさん」
俺がトレセン学園の正門まで行くと、オーバーオール姿のウララと私服姿のライスがいた。ウララの私服は何度も見ているが、ライスの私服姿を見るのは初めてだ。
普段は頭にかぶっている黒い帽子がなく、薄い橙色のリボンで飾った黒髪。服は肌色と黒色を基調とした、ドレスに似た膝丈まで伸びるコート。靴は黒の……ローファーだろうか?
御伽噺か絵本にでも出てきそうな格好で、元気いっぱいなウララとは色々な意味で対照的だった。
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