ハーメルン
トレセン学園は今日も重バ場です
百味飲食



その後しばし。

格好をつけて決意などしておいて大変恐縮だが、トレーナーに割り当てられた個室に出勤した私は死んだ目で、学園から支給されたノートパソコンのモニターを眺めていた。
1時間程度はルドルフのデータを整理していたのだが、行き詰まった。
というのも、結局彼女と相談しなければならない事項があったためだ。
時折、彼女のレース運びが若干おかしくなる事がある。
特段何かの不調が起きている、というわけではない。
大体が、トレーナーからの指示を守りながら、その中で自分なりに試行錯誤しているケースが大半だ。
それ自体は構わないのだが、自分なりにテストして、自分の中で解決してしまう事がある。
何を試したのか、そしてどうなったのかについて聞き取りを行わなければならないのだ。
放置しておいても、いい結果をきちんと手繰り寄せるのが彼女だが、それでもきちんと言語化することでより鮮明になることも多い。
気づかなければ気づかなかったで問題にならない程度の範疇で収めてしまうのが彼女らしいが、些細な事でも妥協は許されない。

この辺りは、明日ミーティングを行うことにしたので良いとして、問題は今眺めている画面である。
トレーナー専用のイントラネット。
これは学内からのみ接続可能な専用ネットワークとなっており、トレーナー間での情報交換
やトレーニング設備の優先予約などが可能な、要は仕事用の便利ページである。
そこに目を通し、他のトレーナーから新入生に関しての情報を仕入れるのだ。
栗毛の誰々がこういう成績で試験を突破している、だとか、脚質がどうとか。
そういった情報を拾い集めているのだが…。

「これだけで判断はできないよなあ…」

言ってしまえば、絞り込むためのキーワードを集めているようなもので、実際には自分の目で見て判断しなければならない。
それが最もわかりやすい形で表出するのが、年4回開催される選抜レース。
学園の『教官』によってまとめて教育され、そしてその結果を見せる選抜レースは、我々トレーナーにとっては市場のようなもの。
選抜レースでしかスカウトができないというルールがあるわけではないのだが、トレーナーというのは新人や担当が『卒業』でもしない限り、基本的に常に忙しい。
担当ウマ娘がいる限り、ウマ娘たちの活動時間は基本的に丸かぶりしているし、教官による指導はトレーナーとは違う場所で行うため、横目に敵情視察を並行できるわけでもない。
そうなると、担当ウマ娘を自主トレさせて、その間にちょろっと顔を出す程度しかないのだが…。

そんなことをしたら担当が拗ねる。
拗ねるで済めば良いが、ウマ娘の気質的に「新しい女を探しに行った」ぐらいの捉え方をするため、概ねろくな結果を招かない。
時折、変態的な性癖が理由でその辺り大らかというか、推奨する者も時折いるという噂を聞くものの、それ以外の面で酷く御し難いし、そもそもそんな変態は最初から候補に入れたくない。
そんな理由もあって、選抜レースで目利きをして、より良いウマ娘を確保するのが本来の流れだ。

だが、幸いにして私の担当は「シンボリルドルフ」である。
それがどうした、と思われるかもしれないが、彼女は生徒会活動により不在になる時間が案外ある。
完全フリーとはいかないし、私が見当たらなければ探しに来る程度ではあるが、時間が全くないわけではない。

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