14・嵐の前の静けさと言うしかない
クーロンズポートに向かう船の上で、俺は深々とため息をついた。
「正直気が重い」
「そこまで警戒する相手ですか? アスラン・ザラと大差はないでしょうに」
俺の身辺警護という名目でCSSの実働部隊を引き連れてきたリシッツァが不思議そうに問うてくる。
まあ、ラクス・クラインという人間を知らないんならそうなるわな。地球での一般的な彼女の評価は、評議会議長の娘で、民衆に人気の歌姫。程度の物だ。要人ではあるが、俺の立場からすればさほど警戒する人物には見えないだろう。
だが俺は彼女がどのような人間だか知っている。ザフトの最新鋭MSと最新鋭艦をパクってテロり、それが終わって平穏に暮らしていたら邪魔されたので再びテロって邪魔者を叩き潰した剛の者(偏見入ってます)だ。現時点ではまだそこまでではないかも知れないが、油断できる人間ではない。
しかしそんなことをリシッツァが知ってるはずもない。だから俺は『現時点での懸念事項』を示す。
「プラントでの彼女の人気は絶大な物で、ファンはそれこそ宗教かとも思えるくらい熱狂的だ。しかも人口の結構な割合が彼女のシンパで、それ以外にも議長の娘という立場、見目の良さから人気が高い」
俺は肩を落とすように再びため息を吐いた。
「つまり俺が関わった上で彼女になんかあったら、プラントの大部分が敵に回る」
「わお最悪」
リシッツァも言わんとしたことが理解できたようだ。覚醒してなくてもこの有様なんだよなあ。下手すりゃプラントの民がオーブを敵視する羽目になっちまう。俺も関わりたくないんだが、オーブの領海に落ちてきた以上、対処はしなければならない。そしてラクスの相手が務まりそうな人間は、こぞって国から離れていたり手が離せない仕事に就いていたりする。結局俺が行くしかなかったわけで。
「仕事減らしたのが裏目に出た。アスラン・ザラといい彼女といい……なんか呪われてんのかな、俺」
「天罰は下りそうな感じですけれど。日頃の行い悪いし」
「地獄行きなのは間違いないがね」
全く、世界はこんなはずじゃなかったことばっかりだ。特にこの世界はろくでもないが、何とかしようとすればするほど問題が湧いて出るのはどういうことなんだろう。とりあえず地獄行くときは閻魔殴る。絶対にだ。
まあそれはそれとして。
「彼女の引き渡しが終わるまで、連合軍を近づけさせるわけにはいかん。警備の方は手抜かりないな?」
「むしろ実戦テストが出来るかもって、海軍の方々が張り切っちゃいまして……偽装母艦とM装備のアストレイ一個中隊がクーロンズポートに出張ってますわ」
「なにやってんの。ホント何やってんの」
配備が始まったばっかりの海戦装備を惜しげもなく投入するとか、大盤振る舞いしすぎだろう。いや、連合もMS投入してくるかも知れないから、用心に越したことはない、か。
「……石橋を叩いておく、と言うことにしておこう。何が起こるか分からんしな。……今回の騒動も、突飛なことが原因だったことだし」
俺の言葉に、リシッツァは眉を寄せた。
「まあ、お姫様一行とアークエンジェルがほぼ同時に地球圏にたどり着いて、軌道上でそれぞれ連合とザフトの特殊部隊らしき連中に襲われて、混戦の挙げ句オーブに落っこちてきたなんて、運命の悪意すら感じる偶然ですものねえ」
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