16 竜王挑戦者決定三番勝負
僕最近東京に来る頻度増えたなー。対局だから仕方がないんだけど。学校の先生にもそろそろ欠席数がマズイと言われた。義務教育だから留年とかないけど、欠席が多すぎてまともに評価できないと。
学校の成績とか気にしてないし、テストも頑張ったから許してください。この前のテストも学年二番だったからそれで許してくれないかなあ。
宿題が溜まるのはマズイけど、対局で負けるのも嫌だ。そうなると学校ある日に早起きしてご飯食べながら宿題や英語の予習を速攻片付けるのが習慣になってしまった。
そのせいで学校がある日はトーストしか食べていない。うん、高校行くのはないな。これ以上勉強に時間を取られたくない。
竜王戦の中継はしたいために、他の対局が平日にズラされる。その結果将棋会館に行くことが増えた。僕が学生だからと対戦相手の方には大阪にご足労いただくことも多い。本来は上座の相手に合わせるんだけど、僕は特例で平日だけはそういった対処がされることになった。そういう調整をしてくださる月光会長には頭が上がらない。
今日はどうやったって大阪じゃ無理だった。竜王戦の挑決リーグは全部中継されることと、その決勝の相手が相手。
名人を僕の都合で大阪に呼ぶのは無理だろう。タイトル戦でもないんだから。将棋界で一番威光を放つ人だもの。上位者を立てる将棋界だから、上の方に合わせて行動するのが当たり前。
結構早めに着いたんだけど、記者の方々が随分いた。簡単な、というかありきたりな質問ばかりだったから定型文で答えられた。すぐに今日の対局室に向かう。
今日すぐ下の階でニコ生の中継あるから、結構人が集まっていた。その喧騒を聴きながら対局室で正座をして待つ。名人より遅かったら流石にマズイ。記録係の人や観戦記者、それにニコ生のスタッフさんがもういた。カメラも回っている。
今日の対局が注目されてる理由は簡単。僕が勝とうが名人が勝とうが大記録が待っているからだ。
僕が勝ったら史上最年少のタイトル挑戦者に加えて七段昇段。名人が勝ったら永世竜王への最後の一期である七戦に挑むことになる。
記者のみなさんにとっても、連盟にとっても。美味しい対戦カードになったわけだ。
僕と名人の対局は記念対局も合わせて一勝一敗。もしかしたらがある一戦。僕が勝ったら最年少同士のタイトル戦になるだろうし。
しばらく待って、名人もやって来た。名人がもちろん上座。時間がかかったのは記者に足止めを喰らったからだろう。
「やあ、碓氷君。学校はどうだい?」
「宿題や予習が大変です。どうしても対局で休んだ日は次の授業が虫食いになってしまって」
「あと九ヶ月か。高校には行くのかい?」
「行かないつもりです。弟子にももっと時間をかけたいですし、僕自身も研究をいっぱいしたいです。高校に行きたくなったら後から行くか、高卒認定を取ればいいかなと」
「そうか。君はその道を行くんだね」
そんな雑談をしながら駒を並べる。他の棋士の方々にも相談したけど、高校でしか得られないものも多いけど今のように将棋に全部リソースを送れるのはだいぶ違うと言われた。
弱くなりたくない僕は、もっと研究に時間をかけたい。だから高校進学はやめておく。
「では時間になりました。名人の先手でお願いいたします」
「「よろしくお願いします」」
・
「ニコ生をご覧の皆様、初めまして。本日第30期竜王戦挑戦者決定戦三番勝負第一局のニコ生中継、聞き手を務めます夜叉神天衣女流一級です。よろしくお願いします」
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