20 竜王戦第四局
竜王戦第四局。これには観戦していた者達も首を捻っている。
僕達もこの日は将棋会館の棋士室で検討を行なっていた。石川の「ひな鶴」に行きたい人は行かせればいい。僕達はここで十分だった。
今日でストレート失冠になるかどうかの一局だったので生石さん含む大槌一門で検討をしていた。師匠だけいないけど。足の調子がよろしくないから仕方がない。
初日が終わったばかりなんだけど。なんて言えばいいか。
「まるで別物だな。筋違い角じゃねーが、十年前の研究を見ているような」
「最新のものではないですね。相掛かりなのに、同じような盤面になっていない。もう定跡が崩壊している」
最新の定跡に合わせて組んだ名人と、昔の棋譜をなぞるように並べた竜王。けどそこまでの齟齬も出ていないし、どっちが優勢でもない。そんな感じで封じ手まで終わった。
今日はここまでということで帰る。明日対局の棋士はいないのでまたほぼ全員集まるだろう。大記録達成の瞬間を見逃さないように。今日は対局あった人いたらしいけど、気が気じゃなかっただろうな。
翌日再集合。の前に自販機の前で坂梨さんに会った。
「お。碓氷君に夜叉神さん。それに夜叉神家のお付きの方。おはよう」
「「おはようございます。坂梨四段」」
「私のことはお構いなく」
「そうですか?ではすいません。夜叉神さんは初対面なのによく知ってたね?」
「師匠の同期ですから」
「あー……。半期後を同期と呼ばないと思うが?同じ年度内の話でも」
「僕の同期は坂梨さんと鏡洲さんですよ」
「竜王に聞かれたら怒られるぞ」
「もう言いました」
そう言うと目をしばしばとさせる坂梨さん。本人に言ってるんだからもう誰相手にも気にしなくなった。
「自分でも驚いてるのに、君にそう言われたらもっと驚く。あの時の三段リーグはおかしかった。鏡洲さんは実力でというか、あの空気に慣れていたんだろうけど。おまけは運が良かっただけだ。なにせ中学生棋士二人にボコされて周りが戦意喪失してたんだから」
「でも一期抜けしたのは実力だと思いますよ?」
「何で俺が史上七人しかいない三段リーグ一期抜けなんて名前を残さないといけないんだ。君や神鍋君ならともかく。そのせいで去年は苦労した。先輩の皆様が俺も同類の天才だと誤認してな」
「戦績悪くなかったですし、詰め将棋100問の正解率第二位だと思いましたが?」
「詰め将棋は、数少ない自慢だから。上が月光会長だから驚かれるけど、そこまでじゃない」
そうかなあ。坂梨さんは十分実力あると思うんだけど。案外自己評価低くて首を傾げてしまう。
「二人はどちらが優勢だと思う?」
「今日の対局なら昨日の時点で五分五分だと思いますよ。封じ手次第ですけど、まだ互角です。それに竜王は『好い顔』をしていたのでこの対局は面白いかと」
「変に緊張していないというか、九頭竜竜王は第三局までと雰囲気が異なります。優勢は師匠と同じで判断できませんけど、名人の悪い癖が出ない限りはこれからですね」
「ああ、確かに竜王は雰囲気が柔らかくなったと思う。悪い癖っていうのは面白いこと優先で勝負をほっぽり出すことだろ?名人はあと三つあると思って面白いのを優先しそうだ」
そこが名人の悪いところだと言ったら、天衣ちゃんに前、お兄ちゃんもそっくりと言われた。新人戦とか三段リーグではそんなことなかったのに。
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