ハーメルン
Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー
ふるさとカゲロウ2006
「あの、ツクヨミさん。これはどうすればいいでしょう」
後付けをしながらそう言った美遊の言葉に、ツクヨミは彼女の視線を追う。
少女が視線を向けるのは、腰にぶら下げた一つのウォッチ。
もちろんそれは、黒ウォズが彼女に押し付けたブランクウォッチだ。
一体どういう企みがあるのか、ツクヨミを頭を悩ませる。
「……一応、危なくはないと思うけど。うーん」
「ソウゴさんがライダーに対抗できる力を得るためになるなら……気にはしませんが」
勝率を高めることになるし、イリヤの負担も減る。
ゴルゴーンの力に依存しない勝機を得ておくのは絶対に無駄じゃない。
だから問題ないなら、黒ウォズの策略に乗るのもやぶさかではないのだが。
「……それにしても、何で美遊に渡したのかしら」
「これは、美遊様が仮面ライダーカブトの力を引き出す切っ掛けとして期待されている―――
という理解でいいのでしょうか」
ふぅむと、顎に手を当てて考え込むツクヨミ。
横でふよふよと浮き上がるサファイアの言葉に彼女は頷く。
「たぶん、そうだと思うんだけど」
「アナザーカブト―――狼王、ロボ」
「19世紀末頃、アメリカではオオカミが家畜を襲う事案が問題となっていました。それを解決するために呼び寄せられた博物学者シートン。
彼はそこで、悪魔の化身とさえ称された狼の王『ロボ』と邂逅します。どんな罠にさえかからず、家畜被害を甚大なものにしていくロボ。
それを捕らえるため実行されたのは、妻と思しき白い狼『ブランカ』を囮とすること。ロボと違い、罠にかかってしまったブランカ。彼女の死体を囮に、ロボは遂に捕獲されます。
そして彼は人間から与えられる餌や水を一切拒み、人間を憎悪しながら息絶えた―――と」
黒ウォズが示したアナザーカブト、国道を縄張りとするライダーの正体。
シートン動物記に名を残す、狼の王の名前。
サファイアが滔々と語ってくれる、その狼の来歴。
それを聞いて少し眉を顰めて、ツクヨミが天井を見上げて。
「……人を憎む理由も分かる。縄張りを荒らされる事を赦さない事も理解できる。
でも、彼は何でこの新宿で、人間の街を縄張りに……?」
「――――……一番、大事な」
隣で、美遊が小さく呟く声に反応する。
「え?」
「ロボにとって、一番大事なものは、何だったんでしょうか」
酷く難しい顔でそう言う彼女に、困惑げな表情を見せるツクヨミ。
それに構わず、少女は言葉を続ける。
「憎しみを雪ぐために人を殺すこと。縄張りを侵すものを殺すこと。
―――それはどっちも、本当はやりたいことなんかじゃなくて。
大事なものを守るために、やるべきだったこと」
ロボの行動は前提が整っていない事を除けば、きっと彼の使命だったのだ。
ここは狼の縄張りではないだけで、縄張りと定めた場所の死守は王であった彼の使命で。
そこに守るべきものは何もないけれど、縄張りを荒らしにきた侵略者の排除もそうだった。
それはつまり、彼の今の行動は。
「……やらなきゃいけなかったのに、やり遂げられなかったこと」
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