第2話(2)インクレディブル・シルバー
「な、何をしてんねん!」
「何って挨拶だよ、問題ある?」
「問題あるやろ! ……い、いや、無いな……ウチ、何で怒ってんねやろ?」
首を傾げる隼子をよそに話を進める大洋。
「君が開発部主任研究員か、大松さんからこれを渡しておいてくれと頼まれた」
「メモリースティックとはまたアナログなデータ管理だね~。まあ今の時代、かえって秘密保守にはなるか」
閃は大洋から受け取ったものを羽織っている白衣の内ポケットにしまった。大洋はジッと彼女を見つめる。
「何?」
「いや、サイズ合ってないんじゃないか、その白衣?」
大洋の指摘通り、閃の白衣はブカブカである。
「これは今後の成長を見越しているんだよ」
そう言って、閃は口を尖らせる。
「アンタ、17でそれなら見込み薄やろ」
「17⁉ てっきり13、14位だと……」
「ロリ体型で悪かったね!」
閃が腕を組んでそっぽを向く。大洋が慌ててフォローする。
「し、しかし、その若さで開発部主任研究員とは凄いな」
「さっきも言ったでしょ? 『ロボット研究の若き天才』、『人類を導く者』、『花も恥じらう雷鳴美人』とは私のことだよ」
「せめて二つ名は一つに絞れ! ただでさえ名前も長いんやから!」
「だから、オーセンで良いって言ってるじゃん~」
「そのオーセンって言うのは……?」
大洋の質問に隼子が答える。
「『桜花』のオーに、『閃』を音読みしてセン、合わせてオーセンや」
「ああ、愛称か」
「大洋もそう呼んで良いよ」
「いや……閃はなかなか良い名前じゃないか。俺は閃って呼んでもいいか?」
閃は一瞬目を丸くしたが、すぐ笑顔になった。
「好きなように呼んでよ、そうだ、『インクレディブル・シルバー』っていうのもあるよ。まあ、これは髪の色から来たやつだけど」
そう言って、閃は自らのショートボブの銀髪をわざとらしくくしゃくしゃにした。
「『インクレディブル』……“素晴らしい、凄い”って意味か」
「初めはな、今はむしろ“信用できない、信じられない”って意味やろ」
「信用できない?」
大洋が隼子に尋ねる。
「飛び級で日本の大学に入学し、その後はアメリカの名門大学院に進学、若干12歳で卒業、『ロボット研究の若き天才』と騒がれた、その時はな」
「その時は?」
「卒業後は世界有数のロボット開発企業に入社、しかし三年程経っても莫大な研究費をかけるばかりで目立った成果を残せずリストラ。その後は日本に戻り大手企業に入るも、そこでも結果を残せず、紆余曲折あって、今この会社に至る……というわけや」
「概ね合っているね、大抵こういうのは噂に尾ひれ羽ひれがつくものだけど」
隼子のやや一方的とも思える批評にも閃は怒った様子を見せず、淡々と肯定した。
「まあ、私の最悪にして最大の不幸は誰も私の考えを理解出来ないってことかな~」
「理解出来ない?」
「そう、私の天才的な発想に誰も着いてこれないのさ」
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