静寂の元でのエピローグ
1年が終わり、生徒達は夏休みとなった。皆はそれぞれの家へと帰った。ホグワーツは静寂に包まれ、大広間では僕とマクゴナガルのチェスの駒の音だけが小さく木霊する。
「寮杯の獲得、おめでとうごさいます。スリザリンからの奪還は何年振りでしたか」
既に大詰め。盤上の駒は残り少なく、既に僕の負けは決定していると言っていい。だからこれは単なる会話だ。彼女も勝利への手がはっきりと見えているのだろう。
手を止めずにクイーンが僕の陣地に突っ込んできた。
「7年振りの事です。本当ならばクィディッチ杯も欲しかったのですが」
ポッターが意識不明だったため、グリフィンドールはメンバーが欠けた状態で最後の試合に望み、スリザリンに大敗した。その時の彼女の様子は、チェスをしている今では考えられないほどに悔しがっていた。
「それに今回の様な特別な得点で優勝しても、本当の勝利とは胸を張れないでしょう」
随分と固い事を言うが、それでも優勝が決まった時に教師の中で1番嬉しそうにしていたのが彼女だ。僕は気づかれない様、喉の奥で静かに笑う。
そう。学年末パーティーの直前までは、スリザリンが最も点数の高い寮だった。ダンブルドアが勿体ぶって、ポッターらの点数を出し渋ったのだ。おかげでグリフィンドールは劇的な逆転をし、見事に1位へと昇った。
スリザリン以外の生徒は全員喜び、グリフィンドールを祝福した。それは良い。明るく騒げるのは素晴らしいことだ。
だがあそこまでスリザリンのプライドを折るような真似をすることはないだろう。グリフィンドールとスリザリンは長年のライバル関係にあり、その相手にあんな反則じみた負け方をするのはさぞ悔しいだろうに。
全生徒に対して平等に接するべき校長が、あんな贔屓じみた行動をしたのが、僕には引っ掛かる。まるでポッターとその友人を、生徒が英雄扱いしたがるように仕向けたように感じられた。
と、いうのは悲観しすぎだろうか。
「チェック」
「でしょうね」
マクゴナガルのビショップが僕のキングを狙う。これは体感だが、彼女のチェスの戦法がパーティーの前と比べると、いくらか攻めの姿勢が強くなっている。
ウィーズリーに渾身のチェスが負けたのが悔しかったりするのだろうか。まだ改良中の戦法のようで粗が目立つ部分も多いが、この場で僕を追い詰めるには十分だろう。
とりあえずはキングを逃す。降参してもよかったが、まだ会話を終わらせるには時間が早い。
「結局今年も、『闇の魔術に対する防衛術』の教師は1年しか続きませんでしたね」
あの教科の担当教師は、ここ何年か1年で交代する事が続いている。理由は様々で、生徒達に噂されているような呪いは存在しない。だが知った顔が長続きしないというのも、どうにも寂しさを感じてしまう。
「クィレルの場合は『例のあの人』の手先でしたのですから、死んでいなくともアズカバンへ収容されていたでしょう。仕方ないことです」
仕方ないこと…なのだろうか。
『彼』の下僕となり『石』を狙った。そう事実だけを書くと、確かに彼は当然の報いを受けたのかもしれない。だがクィレルの持つ弱さに『彼』はつけこんだ。
それは誰もが持つ弱さかもしれない。クィレルは運が悪かっただけかもしれない。もし他人の弱さを見つける事ができるなら。つけこみ、操ることも容易だろう。
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