ハーメルン
ホグワーツの司書
ルーナ・ラブグッド:1

「ねえ、黒い馬を教えて」

 レイブンクローのタイをした彼女は僕の前に現れると、いきなりそう言った。
 その時僕は暇つぶしにカウンターで雑誌を読んでいるところだった。アバウトすぎる問いに困惑したが、その詳細を聞くと彼女は『ホグワーツの馬車を引く馬』について知りたいという。
 面白い見た目の生き物だと周囲の子に言ったら、馬車は勝手に動いていて馬などいないと言われたそうだ。

 正直に言って驚いた。まさか1年生でセストラルが見える子供が現れるとは。
 彼らは『死の瞬間を見た人間』にしか見ることができない。ありえないとは言わないが、少女の年齢でそんな経験をしているのか。少女に興味を持った僕は名前を尋ねる。

「私はルーナ。ルーナ・ラブグッド」

 ラブグッドという名前には覚えがある。たった今まで読んでいた雑誌『ザ・クィブラー』の編集長と同じ名前だ。彼の親族かと訊けば、その娘だった。

「パパの雑誌、読んでるんだ。そんな人、学校で初めて見た」

 驚いているのか、感心しているのかわからない、感情の起伏の薄い話し方をするラブグッドだ。図書室に合った性格の子だと、僕は気分を良くする。昨日来たゴミとは比べるのもおこがましい、正当な利用者である。

「ねえ、黒い馬を教えてよ」
「もちろん構わないよ。ただね…少し問題があるんだ」

 セストラルについて書かれた本は非常に少ない。まず第一に本を書く人間が『死を見た人間』である必要があるからだ。写真を撮っても見える人と見えない人がいるのでは図鑑として意味がない。
 第二に、セストラルが魔法省によって危険生物に指定されている。危険な生き物にわざわざ近づく人間は変人か狂人か、もしくは無謀な馬鹿だ。
 この図書室でもセストラルを専門的に扱っている本は、閲覧に教師の許可がいる『禁書』に分類されている。

 だからといって言葉で説明するだけでは彼らの魅力は伝わらない。せっかく僕を頼ってくれているのだから、セストラルについて知ってもらいたいのだが。

「ラブグッド。1年生ならまだ大した宿題は出ないだろう?今度の休日、セストラルを見に行かないかい?」

 彼らは禁じられた森にも生息している。司書の僕が付き添いなら、生徒である彼女も入れる。
 彼女は僕の言葉に可愛らしくキョトンとすると。

「…デート?」

 と言った。



 そして休日。ラブグッドと僕は森の中を歩いている。彼女にとって森は初めてのようで、その足取りは恐る恐るだ。

「ここ、ハールビエラはいる?」

 ハールビエラとは影に入って旅人を迷わせる妖精。と、『ザ・クィブラー』で紹介された生き物だ。長年色んな所を巡ったが、そんな生き物に出会ったことも、襲われたという話も聞かない。ヒンキーパンクならよく聞くが。
 あの雑誌は色んな生物に溢れる魔法界でも、信憑性が薄いオカルト雑誌扱いされている。あれに載っている話は面白いが、信じるには値しない。というのが僕の評価だ。だが茶飲み話に最適な本なので僕は好きだ。

「森で見たことはないな。大丈夫だと思うよ」
「…そっか」

 それは安心なのか、それとも会ってみたかったという失望なのか、やはり感情がわからない声だった。

 僕らは森の少し開けた場所で足を止める。

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