嘆きのマートル:1
廊下を歩いていると、突然水が流れてきて僕のローブの裾を濡らした。高級品では無いとはいえ、あまり気分が良いものではない。
少し探ると、どうやら水道管が破裂したのが原因だった。犯人はその近くで青白い顔をしている。青白いのは顔だけではなく全身もだが。
「…やあ、マートル。また派手にやったね」
ふわふわと浮かぶゴースト。通称『嘆きのマートル』に声をかける。
「ライアス。…何しに来たの」
何やらご機嫌斜めだ。メガネ越しにこちらを睨んでくる。
「いや、君がこの辺りにいるなんて珍しいと思ってね」
「アンタだって同じでしょ。相変わらず図書室に篭りっきりの癖に」
それを言われてしまうと、こちらは返す言葉もない。
マートルは元レイブンクロー生で、僕の2つ下の学年にいた。同じ寮だったこともあり、生前から何度か顔を合わせている。
「なんでこんな場所に?」
彼女は基本的に2階の女子トイレから動くことはない。それにこの近くに水場はなく、彼女がいる理由がわからない。尋ねるとマートルは苛立ちながら水面に波を立てる。
「気持ち悪い気配がしたの。配管の中。何かが動いてたの」
それはミセス・ノリスが襲われた日のこと。床を水浸しにしたマートルが配管の中を流れている時に感じたという。
「知ってる気配だったわ。思い出せないけど」
その正体を突きとめるために、今日はこんな所まで配管を辿ってきたらしい。だが思うように正体に繋がるヒントも見つからず、苛立ちのあまり配管を破裂させた。
フィルチが聞いたら顔を真っ赤にして怒りそうだ。ただでさえ愛猫を石にした犯人捜しに躍起になっているのに、そんな理由で手間を増やされたら堪らないだろう。
「君は相変わらず短気だね」
「うるさい!あんたに分かるもんですか!」
マートルは叫んだかと思うと、水たまりに飛び込んで水飛沫を上げた。防いでも良かったが、彼女の気が紛れるならと甘んじて濡れた。服の中までびしょ濡れだ。
「グレムリンか何かと間違えたんじゃないのかい?配管にイタズラしていたんだろう」
「もっと大きい感じの生き物よ。配管の壁に体を擦りながら動いていたもの」
水面から顔だけを覗かせた彼女が言う。彼女はマグル出身とはいえ元レイブンクロー生だ。その知識は決して今の生徒にも劣っていない。ゴーストならば物体を通り抜け、死角を探ることも容易い。
その上で正体が分からないとなると、いささかきな臭いものを感じずにはいられない。
「そういえばマートル。君、『秘密の部屋』の噂を聞いたかい?」
「…?…ええ。学校中がそれで持ちきりじゃない。皆話してるわよ」
それもそうか。
彼女が死んだ事件は、『スリザリンの継承者による事件』とされている。だが今回と違うのは、被害者が死んだという点だ。彼女がよくいる女子トイレが事件現場。死者も彼女1人だった。
犯人はトムによって突きとめられ、怪物は逃走した。だが僕は犯人は誤認だったのではないかと考えている。
なにせあのハグリッドが犯人だというのだ。彼は当時グリフィンドール生だったし、お世辞にも狡猾で残忍とは言えない。スリザリンとは全く異なる性格だった。もし僕を騙していたなら大したものだが、それなら『組分け帽子』すら彼の本性を見透かせなかったことになる。
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