クィリナス・クィレル:1
ハロウィンというのは魔法界においてもちょっとしたお祭りのような扱いを受ける。ホグワーツでも大広間に多くの料理が並び、先生も生徒も勢揃いだ。僕も司書ということで、その末席にいる。
騒ぎが起こったのは、僕が次に食べるのはチキンにしようかパイにしようか、悩んでいる時だった。闇の魔術に対する防衛術の教師、クィリナス・クィレルが血相を変えて広間に飛び込んできたのだ。
彼は学内へのトロールの侵入を告げると共に気を失ったが、それは生徒たちに混乱をもたらすのに十分すぎた。子供たちは食べている物を放り出しパニックに陥った。
「静まれ!」
だが校長の咆哮のような一声で、冷静を取り戻す。このような時に周囲を統率できるのが、彼が有能であることの証明であろう。注目が集まった状態で校長は、生徒には寮に戻るように。教師にトロールの対処にあたるように指示をした。
監督生が生徒を連れ出し、教師も慌ただしく出て行った。そうして広間は、あっという間にがらんどうとなる。こういう時、司書の立場というのはあやふやだ。教鞭をとる訳ではないので厳密には教師ではないし、かと言ってもちろん生徒ではない。
つまりどう行動しようが自由だ。
「あ、コレ美味しい」
残された料理に舌鼓をうつ。作っているのは屋敷しもべ妖精だが彼らの腕は確かだ。大皿に乗ったカボチャゼリーを大きく切り取り、口に運ぶ。誰かと楽しく食べるのも好きだがそれと同じくらい、誰の目も気にせず食べたいように食べるのも、僕は好きだ。デザートを食べた後で口直しにスープを飲んでもいい。
そうしていると、気絶していたクィレルが目を覚ました。彼は飛び起きるように身を起こし、首を振る。辺りを見回して、僕に気が付いた。
「あ、あの。みな、皆さんは?」
おどおどとどもりながら、彼は僕に問う。以前の彼はこんな話し方ではなかった筈だが、他の魔法使いから呪いでも受けてしまったのだろうか。
他の人がどこへ向かったのかを言うとクィレルは「では、私も」と、そそくさと去っていった。出て行く間に、何度もこちらを窺うように振り返っていたのが印象に残った。
これで正真正銘、広間は僕1人となったわけである。そろそろ膨れた腹にシメにしようと、今日の料理の中でも渾身の出来栄えであろうカボチャケーキに手をかける。
だがそこで思わぬ…正確には思っていたが来て欲しくは無かった校長からの使いが、文字通り飛んできた。
「…やあ、フォークス」
燃えるように美しい赤羽の鳥。ダンブルドア校長の不死鳥だ。フォークスは何かを伝えるような瞳でこちらを見る。その吸い込まれそうな瞳は、心まで見透かしてきそうな不気味さも持ち合わせている。まるで彼を通じてダンブルドアと相対している気にさせられる。
そして今は、以前に命じたことを思い出させようとしているかのようだった。
「はぁ。全く。校長は面倒な事ばかりを命じてくるんだから」
ケーキにかけた手を戻し、やれやれと席を立つ。気は進まないが、校長から直々のお達しだ。従うしかあるまい。
■
ホグワーツの4階の廊下。生徒は立ち入りを禁止されている場所に、人影が現れる。廊下の灯が、影の顔を照らす。特徴的なターバンをした男。クィレルだ。
彼にさっきのような臆病さは無い。むしろ堂々と廊下を進み、奥の扉へと近づいていく。その前にスネイプが立ちはだかる。
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