ハーメルン
顔真っ赤なネイチャさんに「お、お馴染み1着ぅ……」と言わせるまで
皇帝と新人トレーナー
「さーて、問題は」
栄えある中央トレセン学園新米トレーナーとなった神谷は、一つ伸びをして広い練習場を眺めて言った。
「――思ってた五倍くらい避けられてるってことだな!」
ほとんどのトレーナーに否定的な感情を持たれている現状、既にチームに所属していたり専属トレーナーを持つウマ娘たちに避けられることは覚悟していた。
彼女らの担当トレーナーが、自分のことを悪く言うことは想定していたからだ。
だがこれはどうにも、まだどこにも属していない子たちにまで噂が波及しているように感じられる。
「走りを見ようにも、俺のこと気になるみてえだし……」
どんな風に広まっているやらと、頭を掻く。
ベテランスカウトでもあるまいし、こうしてちらちら様子を窺われると居心地が悪い。
様子見なんてのは短い距離だから出来るのであって、こうも遠くからでは脚質の分析もろくに出来やしない。
「んあー……あの子、芝よりダートのが向いてそーだなー……」
「ほう。では語りに行くのかな?」
と、背後からの声に気づく。
なんでこんなところにいらっしゃるのやら。
「……いつから居たよ、生徒会長」
「最初からさ」
「最初……?」
「む。こう言うのがお約束と聞いたが、どうやらハマらなかったようだ」
「さてな。国外が長いせいで、俺にゃ判別できねー」
「そうか」
隣に並び立つ生徒会長――シンボリルドルフ。
皇帝の名に恥じない、学園最強のウマ娘。そして、すべてのウマ娘の幸福を目指してやまない求道者。
軽く挨拶を交わした程度だが、数多く居るトレーナーのすべてを丁寧に記憶しているというから頭が下がる。
理事長を悪く言うわけではないが、学園のトップにすら相応しい人望と力量を秘めた人物と言えた。
なのに、だ。
ちらりと見れば、その耳が少し寂しげに下がっていると来た。
ままならないものである。
「悪ぃって。マジでネタがわからんだけだ。邪険に扱ったつもりはねえ」
「いや、こちらこそすまない。確かに私が配慮に欠けていた」
「……それで、なんでわざわざこんなところに。散歩ってわけでもねーだろ」
「むしろキミにこそその台詞は返したいが?」
「あ?」
どういうことだ、と眉をひそめて。
あくまで友好的で穏やかな笑みを崩さないシンボリルドルフと見合うこと数秒。
何かに気づいた神谷は、思わず彼女から目をそらした。
「……あー。俺はスカウトを待つウマ娘を探しに競技場に来たんだが……なんかやらかしてる?」
「ここは今日、複数のチームが借りている競技場だね」
「つまりここにいるウマ娘はみんなチームに加入済、と」
そう納得を示せば、鷹揚に頷くシンボリルドルフ。
またやっちまったと呻いて、神谷は空を仰いだ。
「……少し、地の利に疎くてな」
「ああ。七時間も予定がずれたからよく知っているとも」
「沖野サンめ……」
「すべて沖野くんのせいにするのはいささか無理がないだろうか」
「ぐっ……」
ぐうの音も出なかった。
「いや、悪かった。それじゃ俺は未加入の子たちが居る競技場に行くよ」
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