ハーメルン
顔真っ赤なネイチャさんに「お、お馴染み1着ぅ……」と言わせるまで
ネイチャさんと案の定トレーナー
1600mのレースだったらどうだったか分からない。
それが、精一杯の沖野のフォローだった。
地団駄を踏んで「特訓よ!! 付き合いなさい!!」とネクタイ引っ掴んでずんずん帰っていったダイワスカーレットは、もはやそこに優等生の皮を被って絡んでいたもう1人のトレーナーが居たことすら頭から吹き飛んでいただろう。
これが、或いはトレーナーの有無の差というものなのか。
ダイワスカーレットの素質は決してマヤノトップガンやマーベラスサンデーに劣ってなど居ない。だが2人には既に数月を共にしているトレーナーが居て、ダイワスカーレットはこれから磨かれる原石。
だとしたら、それは凄まじいことだと神谷は思う。
決してトレーナーの存在を軽視しているとか、或いは過剰に評価しているとか、そういう話ではない。
神谷が接してきた数多くのウマ娘。それぞれに優劣というものは、やはり明確に在った。
世の中というものは残酷で、誰しもが一番になれるわけではない。
中距離では一歩譲るが、マイルでならトップをとれる――なら、どんなに良かっただろう。
現実は、中距離もマイルも、果ては長距離も同じ1人のウマ娘に誰も届かないなんてこともざらだ。
頑張ってトレーナーと歩んできたウマ娘が、ひょっこり現れたルーキーに全ての面で及ばないことだって、ままある。
だからこそ、先ほどまで3人が走っていた芝の競技場を見て神谷は思うのだ。
トレーナーのもとで必ず強くなってくれる、綺羅星のような原石たち。
素質では優劣の付けられない逸材の宝庫。
これが中央トレセン学園か、と。
知ってはいたが、こうしてちょっとしたことを目にする度に改めて自覚する。
「マーベラース★」
「おうマーベラース★ すげえマーベラスな走りだったな」
「ありがとー!! もっともーっとマーベラスに、これから世界を染めていかなきゃ!」
「壮大な改革計画だな。お前のトレーナーが羨ましいぜ」
本心からの言葉をかければ、嬉しそうにほほ笑むのは小柄な少女。
小柄な割にスタイルはよく、また大ボリュームの黒髪の自己主張が凄まじい。
だが彼女の中で最も目を惹くのはその煌めく美しい瞳だろう。
思わず神谷も「マーベラス★」と呟いてしまう、これからが楽しみなウマ娘だ。
もう少し体が出来たら、いよいよメイクデビュー出走といったところだろうか。
「ねえねえマヤはー? ちゃんと見てたー?」
「おうマヤノトップガン。すげえ楽しそうに走ってるもんだから、見てるこっちまで笑顔になっちまったぜ。名前からも思ったけど、戦闘機思い出すな。かっけえわ」
「えへへ。ちゃんと見ててくれたんだね! 許してあげる!」
「ありがとよ」
もう1人はおしゃまで溌剌な少女だ。名をマヤノトップガン。
小柄な体躯から繰り出される力強い動きには、ひょっとしたらどんな走り方も出来てしまうのではないかという末恐ろしさがある。
実際にやらせてみないと分からないが、そんなことを神谷の口から言うわけにもいかない。
神谷が彼女たちに出来るのは、せいぜいケガをしないよう見張っていることと。
「やー、二人ともすげーわ」
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