消えぬ黒星
照りつける太陽が、これほどまでに鬱陶しいと思ったことはあったんだろうか。
皮膚は焼けて、目を十分に開きたいのに、日光にそれすらも阻まれて、冷たくて新鮮な空気が欲しいのに、口に入ってくるのは、淀んだ生ぬるい流体だけだった。
それでも足を止めることは出来ない。
ここで止まれば、私はまた…。
でも、もう..苦しくて、苦しくて、前をみるだけでも精一杯。
あきらめちゃだめだ。私は、きっと。お母さんの背中に追いつくんだ…。
でも、私の目に映るのは、ほかの娘たちの背中ばかり。
また私を追い越して、私に背中を見せつける。
そしてみんな、背中で私にこういうんだ。
「このノロマ。」
って。
ああ。さっき私を追い越した娘の背中がもうあんなに小さくなっている。
追いつきたい。勝負をかけたい。でも、私の肺は、もう悲鳴を上げている。
ああ、これで何度目なんだろう。
―――――――――――
『最終コーナー回って、各ウマ娘。おっとここで5番オークストリーム抜け出した!勝負を仕掛ける!!それに追走!9番テクノイニシャル!!残り200!!テクノイニシャル届くか!?』
会場内に興奮の声が上がる。現在絶賛売り出し中の注目のウマ娘2人の白熱した競り合いに、それに薪をくべるように観客を煽る実況。
今日はただの一般開催だというのに、それなりの盛り上がりを見せる。
『オークストリーム!!早い!!テクノイニシャル!ジリジリと距離が広がるか!?オークストリーム逃げ切ってゴール!!見事人気に応えました!!!2着はテクノイニシャル!あと一歩及ばず!!』
『非常に白熱したレース展開でした。今後の彼女らに期待がかかりますね。』
そんな先頭集団に数秒の遅れをとって、ぞろぞろと敗北したウマ娘たちがゴールを通過する。
最早、入賞を逃したこのレースは、彼女らにとっての価値はないらしく。どこか気の抜けたゴールインを決める者も珍しくはなかった。
そんな中にたった一人だけ、必死に歯を食いしばってゴールを通過するウマ娘もいた。
―――――――――――
「…っはぁ!!…はぁ!!…げホッ!!ゴホッ…!」
両膝をターフに付き、全身で息をする彼女の姿は、その場だけ切り取れば熾烈な1着争いをした直後と見えなくもないだろう。だが現実は。
強く閉じていた目をやっと開き、着順掲示板に目をやる。
…当然だが、その確定に自分の数字が入ることはなかった。
隣のモニターに目を移す。
「…6…7…8…9。…あった。9着レッドマーシャル…。やった…10着以内に入れた…。」
なんだか、一桁の着順を見るのも久しい気がするのは気のせいなのだろうか。
「がんばった…よね?…この間は…びり…だったんだもん…。」
いまだに回復しないスタミナを、最低歩ける程度にまで回復させようと、彼女は大きく息を吸った。
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