スプリントターボ
「…ムゥ、ヤハリ、ヌルイ。」
センニンの監督の下、トレーニングが始まった。
結局その日は教室へ戻ることはできなかった。
「…はぁ…はぁ…ダメ…ですか…?」
「…ヌルイ。デキテナイコトハナイ…ダガ…スパート…キカナイ。」
センニンはマーシャルの走りを見て、顎を抱える。
確かにセンニンから以前習った呼吸法で、彼女の走りは変わった。
より強く酸素を取り込むことで、通常走行であればスタミナ切れも比較的起こしにくくはなっていた。
だが、スパートともなれば話は違った。
あれだけ荒れ狂うように、全身全霊をかけすべてを吐き出すその瞬間は、悠長に呼吸を意識することは難しい。
「ロングランとスパートじゃあ、使う筋肉も違えば、呼吸も違う。ロングランってのは酸素を使ってエネルギーを出す、対してスパートすなわち瞬発力ってのは酸素を使わずにエネルギーを絞り出す。…スパート中の呼吸を鍛えるなんざ、俺にはあんまり意味があるように思えんがな。」
センニンの傍らで大城は言う。
「…ワカッテオラン…コキュウニ…フカノウハ…ナイ…サンソハスベテニオンケイヲアタエル。...スパートニサンソガフヒツヨウ…マチガイダ。」
「…じゃあ、呼吸を鍛えりゃあ、あいつのスパートは格段に良くなると?」
「…ミテオレ。」
そういってセンニンはターフのスタートラインへと着く。
「…なにすんだ?」
彼の行動は大城の予測の範囲すら超えていた。
「……ムンッ!!!!!!」
センニンが一気に呼吸を行う。
その瞬間、全身の血管が表面にハッキリとわかるほど浮き出て、筋肉がパンパンに腫れ上がるように肥大化を起こした。
「…ンだそれ…?」
「せ…センニン…さん?」
「…コレガ…コキュウノ…シンズイ…。」
そういうとセンニンは一気に駆け出す。
突風の如く、風を切る…3ハロン4ハロン…まるで老人とは思えないほどの走りを…二人に見せつける。
「あっれ~?あれだれだろ?すっごい速いけど...あの白いモサモサは..ハヤヒデかなぁ?」
「...私がどうかしたか?チケット。」
「あれ!?ハヤヒデ!?…じゃあ…あれ…だれ?」
そうして…風神のような速さを維持したまま、センニンはゴールラインを切る。
「…ドウダ…ヒトハ…コキュウニイキル…コキュウトシタシクナレバ…ツヨイチカラ…エラレル…。タトエ…スパートダロウト…。」
「…あんた、トレセン入学したほうがいいんじゃないか..?」
「…す…すごい…。」
そのタイムはマーシャルの全力すらも上回るラップタイム。
というより、人間が出していいタイムではない。
「…コキュウダ、…コキュウヲキワメロ。」
「…なるほど、全集中ってワケね。」
「………」
呆気にとられるマーシャルのお腹を、センニンは掌で強く押す。
「コキュウ!!ワスレルナ!!」
「ひゃあああ!!ちょ..ちょっと!!」
「…でもよぉ、確かに50年かけりゃあ、あんたみたいなポパイになれるかもしらんが、1週間でこいつにそれが習得できるのか?」
「…ナニモヒダイカスルコトハナイ…ヒツヨウナノハ…コキュウニヨッテシンノチカラヲエルコト…ソノプロセス。…ゲンテイテキニスレバ…モットハヤク…エトクデキル…マーシャルナラ。」
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