決別
「…ということです。宮崎トレーナー。我々の意見、如何なものでしょう。」
「ええ。私も概ね同意ですよ。…ふぅ。これも彼女を思うため。仕方のないことです。」
「…では、彼女には、私から。」
「お願いしてもいいですか。」
「これがチームリーダーとしての務めですから。」
「…立派です。フロイドスピリットさん。」
「…レコード。そんなうだつの上がらない顔はやめろ。」
「だって...こんなのあんまりじゃないですか。成果が出せないならクビなんですか!?」
「落ち着いてください!グッドレコードさん!...私は何も、成果が出せないから…などという理由でこのような処置は断じて行いません。…彼女の…身体が心配なんですよ。彼女の肺が弱いことは常々存じてました。しかし彼女は頑張りすぎています。このままレースを続けたらと思うと…。」
「…。」
「御理解…いただけますね…?」
「…はい。」
―――――――――――
「では、失礼します。」
そういって二人のウマ娘がトレーナー室の戸を閉める。
ベテルギウストレーナーの宮崎は、応対用のソファーを離れPCの前の椅子に掛ける。
彼女には、悪いことをした。でも、これもチームのため…。
そのPCを見るわけでもないその目は、何かに苛まれるような、後ろめたいものがあるような、はっきりとしたものではなかった。
「これで…これで、いいんです。」
背もたれに背を思い切り預ける。
そして自身の手で目を覆った。
そこに
「よォ、邪魔するぜ。」
と何者かがノックも無しに戸を勢いよく開けた。
「!!」
無防備な姿勢だったからか、急いで状態を起こす。
「…大城さん。」
―――――ー――ー
「レッドマーシャルさんを!?」
「ああ、そうだ、俺にくれよ」
応対用のソファーをわが物のようにして座るその男の言葉に、宮崎は驚嘆した。
「…なぜなんです?」
「ウチの娘に似てるからさ…なんてな。」
そんな大城の冗談に対応する気もない宮崎は続ける。
「レッドマーシャルさんでしたら…どうぞ。もう、彼女は、私たちのチームメンバーではありませんから。」
「クビにしたってのか?成果が出ないお荷物だからか?」
その棘を隠す気もない言葉に宮崎は少しムッとする。
「違います!私は彼女の身体を鑑みて…」
「先週の1800、なぜあいつを出した?」
「…え?」
「あいつはただでさえ、肺が弱い。そんな奴がまともに1800を逃げで走れると思ってんのか?」
「…」
「ははは…お前も大層喰えねぇ野郎だよなぁ?」
「…何を。」
宮崎の顔に明らかな動揺が走る。
「適正でもないレースに、負けの要素が強いレースに、あえて出走させる理由なんかねぇ。」
「彼女が望んだんです。中距離を走りたいと。」
「それでも止めるのがフツウのトレーナーってもんだ。それでもお前は止めなかった。それはなぜだ。」
大城はソファーから立ち上がる。
「”負けさせる為”だ。敗走を続けさせて、あいつの心が折れるのを待った。チームメンバーが業を煮やすを待った。そして、さっきの二人がお前のシナリオ通りに動いた。…違うか?」
「盗み聞きをなされていたと?」
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