トレーニング開始!
「…はぁ、はぁ。もう少し…。」
まだ日の強い午後、マーシャルは一人でターフを駆けていた。
ほかのチームが練習しているところに混ざりこんで、ひっそりとランニングを続ける。
(やっぱり、ほかのチームの人たちも…早いなぁ。)
ただのランニングのはずなのに一人、また一人と追い抜かされていく。
そうしてやっとゴールラインの前に戻ってくる。
ほかの娘たちがかかる時間よりも遥かにオーバーしてることくらい、ストップウォッチを使わずともわかる。
ターフに四つん這いになって、全身で空気を吸う。
たった2周ランニングだけでこのザマだ。
いくら走り込みをしても、スタミナが増える様子がまるでない。
(本当に…私…勝てるのかな。)
そういえば、大城の様子が見えない。
今日16時にターフにてという話だったのに、時刻はすでに16:50。
遅刻も遅刻、大遅刻だ。
(…勝手な人。)
自身のスタミナの無さも不安だが、そんな自身を背負ってくれるトレーナーにも、いささかな不安を感じる。
「よオ!なに一人で勝手にバテてんだ?」
相変わらずな陽気な声を出す人物を見る。
「…大城先生…遅いですよ。」
「先生じゃねぇ、今日から俺はトレーナーだ。」
遅刻の理由も言わずにそう喋る大城に、マーシャルは半ば呆れ気味だった。
「んで、なんで走り込みなんてしてんだ?」
「だって、先生…来ないじゃないですか…。」
大きな呼吸のリズムに、言葉が踊らされる。
「ばーかヤロー。今までと同じことやって勝てるようになりゃ世話ねーよ」
と言いながら大城はスポーツドリンクをマーシャルに差し出す。それを受け取ったマーシャルはそれを一気に体に流し込む。
「今日からお前は瞬発力を重点的に鍛えていく。」
「瞬発…力。」
「言っただろ?お前の出だしの瞬発力、それをお前の武器に、取り柄に変えていく。」
「それで…勝てるんですか…?」
「まぁ、2000とかは無理だろうだがな。ま、せいぜい1200に勝てる体を作っていくワケだ。」
「じゃあ…私は…。」
「そうだ、お前は今日から…スプリンターだ。」
その瞬間、マーシャルの目の色が変わった。
「…不満か?オフクロとは違う土俵で走るのは。」
「いいえ。それが私にできる戦いなら…どんなことでも。」
「いいネェ。じゃ、まずこれ、俺からのプレゼントだ。」
と大城は小包を両手で抱えて差し出す。
「えっと、開けていいんですか…?」
「さっさと開けろよ」
誰かにプレゼントをもらうだなんていつぶりなんだろう。でもその小包、やけに重い。
箱を開けると、そこからは猛々しく銀色に輝く蹄鉄が出てきた。
「蹄…鉄…ですか?」
「なにか気になることは?」
「めちゃくちゃ…重いです。」
「だろ?特注品だ。市場に出回ってるヤツで一番重いタイプの1.6倍はある。」
「これをつけて…トレーニングを?」
「ばーか。トレーニングだけじゃねぇ。」
「え?」
「今日からそれ履いて生活すんだよ」
「ええ!?」
こんなに重い蹄鉄を、普段から!?
「ま、毎日ですか!?」
「おうよ、学校があってる時も、飯食ってる時も、便所行くときも。寝るときと風呂入るとき以外全部だ。おっと、ちゃんと室内用蹄鉄付きシューズ(底部シリコンカバー仕様)も用意してある。寮の中でも忘れんなよ。」
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