ハーメルン
元便利屋は旅をする
12 古賀良平視点 飛優ちゃん

「はじめまして、古賀飛優です。」

多恵さんの後ろから出てきた女の子はそう言って、ペコリとお辞儀をした。
 気弱そうな垂れ目に、下がり眉、ぷっくりとした可愛らしい唇。どことなく兎のようだと思ってしまうその容姿は、写真の中の母によく似ていた。

母あゆ子は良平が四歳のときに亡くなっているので、良平は写真に写っている母しか記憶にない。でも、白黒写真の中の母をうんと幼くしたら、きっとこんな顔になるんだろうなぁ、と良平は思った。

「はじめまして、飛優ちゃん。僕の名前は古賀良平。ところで、その黒い犬の名前を教えてくれるかい?」

人見知りをする子のようなので、良平は屈んで飛優と目線を合わせてできるだけ怖がらせないようにした。

「この子は影月という名前です。私の式神です。」
(式神……呪術師の子供かぁ。でも、それにしては幼いような……。)

術式を使えるようになるのは大体四歳頃。この子供はせいぜい三歳くらいにしか見えない。

(うーん、成長障害かな?)
「てゆーか、古賀って……どういうことよ?多恵さん。」

今まで状況についていけずに黙っていた姉が多恵さんに質問した。

(あ、それは僕も気になる。)

もちろん、良平だってこの子供について聞きたいことは山ほどある。

「重吾様の娘です。当主様が養子として引き取りました。」
「はぁ!?アイツ、子供をここに置いてったの!?」

姉がそう言うと、多恵さんは飛優ちゃんをチラリと見て姉に目配せをした。姉もハッとした顔になり口を押さえる。さすがに本人、それも子供の前でそう言った話をするべきではない。とりあえず、家の中に入って、飛優ちゃんと影月をお座敷に連れて行ってから別室で話をすることになった。



「重吾様がお金と引き換えに当主様に渡してきたそうですよ。」
多恵さんが沈痛な面持ちでそう言った。
「なっ……子供を金で売ったの!?アイツ!やっぱり今度会ったら一発……飛優ちゃんの分も含めて二発ぶん殴ってやるわ!!」

子供好きの姉にとってはとても許し難い行為だろう。だがしかし、良平は姉に重吾を殴らせるわけにはいかない。

「姉さん、落ち着いてよ。姉さんの力で殴ったら兄さんが死んじゃうよ。」

なんせ、良平の姉こと春香は呪力を蝿頭よりは多い程度にしか持っていないはずなのに、ただの金属バットで一級呪霊を討伐したことがあるのだ。呪力なしの完全非術師の重吾は確実に死んでしまう。

「どういう意味よ!?」
「ご、ごめんよ。あ、そういえば、どうして飛優ちゃんが隠れてるのに気付いたの?」
「いや、なんか、話してたら、途中から視線を感じただけだけど。」
「えぇ……。」
(視線って何……?)

良平には逆立ちしても分かりそうにない領域の話だった。

「ま、でも、嫌な感じとかは全くないし、観察してるみたいだったから最初は小動物かと思ったんだけど、なんとなく違う気がしたから。」
「へぇ、そうなんだ。」
「何よ?」
「いや、別に?」

相変わらず、野生に生きていると思っただけだ。

[9]前話 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/1

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析