6 食事
(ウミサチヒコとヤマサチヒコの間の兄弟が抹消されていたな……。まぁ、物語に関係が無いから省略したのだろうが。)
飛優は絵本の内容について考えていた。
明確に言うと現実逃避である。多恵さんが用意したであろう食事が目の前に並んでいる。
「「頂きます。」」
飛優と祖父は挨拶をしてから黙々と食べ始めた。お茶碗などの食器は大人用だったが、量は祖父の半分程度で柔らかそうなものが多い。祖父のお膳には無いクマの形をした可愛らしいパンケーキに、飛優は目を輝かせた。
「美味し……」
煮物の厚揚げがじわりと口の中に出汁の旨味を広げる。牛蒡も柔らかく煮込まれていて、食べやすかった。小さめの焼き鮭を大根おろしと一緒に食べる。最後に食べたくて残しておいた煮物の人参は優しい甘さが有った。デザートのパンケーキを食べる用に小さなフォークが付いていたのでそれを使って柔らかそうな生地を切り取った。断面を見るまで分からなかったが、野菜が細かく切り刻まれて生地の中に入っている。パンケーキはふわりとした食感で、飛優はすぐに食べ終わった。
「ご馳走様でした。」
祖父は既に食べ終わり挨拶を済ませて席を立った後だった。
飛優は四角い形をしたお盆を持ち上げて台所まで運んだ。二歳児の体ではきつい仕事だったが、白雨に支えさせることで何とか運びきる。台所にいた多恵さんに食器の乗ったお盆を渡そうとすると、多恵さんは目を見開いた。
「あらま!後で私が下げましたのに!」
(そういえば祖父も運んでいなかったな……。)
「御免なさい。」
「重かったでしょうに……。」
「はい……。」
「この次からは私が運びますからね。」
「はい。ご飯美味しかったです。有り難う御座いました。」
「まあ!お利口さんですね。お粗末さまでした。」
飛優はペコリと一礼すると台所を出た。
(お祖父様の部屋はあちらだったかな?)
飛優はお祖父様の部屋があると思われる方向に向かって歩いた。
「おい、どこに向かっている?」
後ろから祖父の声がした。
「……?お祖父様の部屋ですよー。」
「そちらは便所だ。」
「あれ?」
「……正反対の方向だぞ?」
「すみません。」
「……逃げようとしたので無ければ良い。」
「はい。」
(今更逃げたりはしないのだがなぁ。)
「まあ良い。術式について試したいことがある。ついて来なさい。」
「はい。」
*
道場のような場所に着いた。
「式神を出してみろ。」
「はい。」
今まで隠していた白雨と影月の姿を現す。
それぞれ金色の歪みと黒い霧の中から出て来たように見えたであろう彼らを見て、祖父が言った。
「女は居らんのか?」
「あ」
(忘れていた。)
「出します。」
白い紙吹雪と共に時子さんが現れる。
(早く時子さんにも『隠密』が出来るようにしないとなー。)
時子さんの紙吹雪は時子さんに作らせた映像なので飛優にもしっかりと見えた。
「ほぅ、丁度七体か。」
「はい。」
「もっと出すことは可能か?」
「はい。」
鯉の状態の白雨を生成する。
十五匹くらい出来たところで祖父が止めた。
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