紫天の死霊術師
リリアミラを拾った少女は、王だった。
権力を持っているわけではない。家柄が優れているわけでもない。少女は、ただ純粋な力のみで、王としてそこに在った。
「そう。彼はきっと、あなたに殺してほしかったのね」
ただし、少女が力のみの存在であったかと言えば、それもまた違った。
魔の王を名乗る者として、彼女は相応の知恵と器量を備えていた。相手の話を聞き、心を気遣い、自分の思うところを素直に述べる人間らしさがあった。
リリアミラの話を聞き終わった王は、静かに頷いて、瞳から雫を落とした。
涙だった。
「あなたの魔法は、世界を歪める力。残念ながら、今のわたしの力でも、あなたを殺してあげることはできないわ」
だから、と。リリアミラが探していた答えに、少女は解答を用意した。
「わたしが、あなたを殺せる力を手に入れるまで。あなたは、わたしに仕えなさい。リリアミラ・ギルデンスターン」
「そうすれば……あなたは、わたくしを殺してくださるのですか?」
「ええ、殺してあげるわ」
少女の華奢な手が、リリアミラの黒髪を掴んだ。
暴力を振るわれる。殴られる。そう思って体が竦んだ。
逆だった。
少女は強引に、力だけで、リリアミラの唇を奪った。
数秒の間を置いて、熱っぽい吐息が離れた。
赤い瞳が、冷たく。それでいて、どこまでも美しく、リリアミラを見ていた。
「かわいそうなリリアミラ。わたしが、あなたを愛してあげる」
この瞳の中でなら、輝けるかもしれない。そう思った。思えてしまった。
「……魔王様」
「なあに?」
しばらく、唇に残る温かさに呆然として。
彼を殺せなかった自分を思い返し、リリアミラは問いを投げた。
「殺すことは、愛なのですか?」
魔王は、即答した。
「殺すことも愛よ」
本当に、美しい微笑みだった。
「だって、あなたはそれを心の底から欲しているもの」
そして、リリアミラ・ギルデンスターンは、世界最悪の死霊術師となった。
◇ ◇ ◇
リリアミラが部屋に戻ると、やはりというべきか。賢者と騎士が不機嫌な顔で待っていた。
「遅かったですね」
「ええ。噂の少女にも会っておきたかったので」
シャナの皮肉はさらりと流して、ガラス張りの扉を開く。当然のように、悪魔達の血の臭いが部屋の中に広がった。とはいえ、その程度のことで動じる女は、この場には一人もいない。
「うふふ。それにしても、勇者さまとお会いすると、体に活力が漲ってきますわね。やる気がぐんぐん湧いてきましたわ」
「はぁ……仲が良さそうで、なによりですよ」
「それはもう、わたくしと勇者さまの間には、切っても切れない絆がありますから」
「絆ねぇ」
アリアの何か言いたげな視線はするりと流して、リリアミラは仕事の準備に入った。
「先ほども申し上げましたが、あまり意味はないと思いますよ?」
「承知の上です。それでも、何もしないよりはマシでしょう」
「そういうこと」
「まあ、お二人がそこまで仰るのであれば、わたくしもパーティーの一員として、力を貸すのはやぶさかではありませんが」
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