ハーメルン
世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった
純白の賢者

「で、あの踏んでた人どうしたの? 大丈夫? まだ生きてる?」
「……ひさしぶりに会う仲間への第一声がそれって、勇者さんは本当に、私のことをなんだと思ってるんですか?」
「こわい子」
「名前と一緒に語彙も失ったんですね。かわいそうに」

 ひさしぶりに会う賢者ちゃんは、案内された応接室のソファーにどかっと腰を下ろして、ほっそい足を高い位置で組み、かわいそうなものを見るようにおれを眺めていた。めちゃくちゃえらそうだなコイツ。
 なんだか取り込み中みたいだったので、また日を改めて訪ねようかとも思ったのだけれど、賢者ちゃんは予想以上に早く用事を済ませて、おれたちに会う時間を作ってくれた。決して暇な身の上でないだろうに、ありがたい話である。

「はぁ……殺してませんよ。どちらかといえば、彼は都合よく利用された側の人間ですし。まだまだ私にとっても利用価値がありそうだったので、解放してあげました」
「それはよかった」
「良い豚になりそうです」
「あの人、一応王国に五人しかいない騎士団長だよね?」

 どんだけこわいことしてるの、この子。曲がりなりにも国防のトップを担う人材を気軽に豚さんにしないでほしいんだけど。

「それで、そちらが勇者さんの新しい彼女さんですか?」
「い、いえ! 彼女だなんてそんな! わたしは勇者さんに助けて頂いただけで……」
「ちっ……」

 でかい舌打ちが漏れた。
 赤髪ちゃんが身を固くして、賢者ちゃんとの間に緊張がはしる。おれは慌てて間に入った。

「お行儀悪いぞ、賢者ちゃん。あと、おれはこの子を普通に助けただけだから、べつにそういうのじゃないから」

 賢者ちゃんの圧に押されて、赤髪ちゃんは明らかに小さくなっていて、肩身が狭そうである。

「は、はじめまして。わたしは」
「自己紹介はいらないです。おおよその事情はさっき勇者さんから聞きましたし。この人は私の名前も、あなたの名前も聞こえないんですから」

 なんかおれ、気を遣われてるなぁ。申し訳ない。

「あなたも、私のことは名前で呼ばずに、適当に『賢者さん』とでも呼んでください」
「は、はい。えっと……賢者さんは、勇者さんと一緒に冒険されていたんですよね? ということは、魔術士さんなんですか?」

 赤髪ちゃんの質問に、賢者ちゃんはむっとした表情になった。

「賢者っていうのは『魔術士』じゃなくて、高位の『魔導師』の別称なんだよ」
「役職名ってことですか?」
「えーと……そもそも、魔術を使う魔術士にも種類があるのはわかる?」
「いえ、全然」

 まあ、記憶ないもんな。

「魔術を使える人間は、その上手い下手に関わらず魔術使いって呼ばれるんだけど。学校に通って正式な学問として魔術を学んだ人間のことを、魔術士っていうんだ」
「ふむふむ」
「人に魔術を教えることができる人間は、魔術士とは区別して、魔導師って呼ばれる。魔を導く師、と書いて魔導師だ」

 賢者ちゃんは、一流の魔導師である。
 その中でも『賢者』とは、魔道を修めた者達の中でも、より高いレベルでそれらを伝え教えることができる高い位の魔導師を指す。生まれついての感覚やセンスに頼って魔術を使う者も多い中で、そのメカニズムを正確に理解し、解き明かした者。文字通りの、賢き者。それが賢者なのだ。

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