トレーナー兼工場長
「問題無い! あの様な荒々しい者だが、興味を惹き続けると言う点において、あやつの右に出る者は無い! 私自身も昔は何度か遊んで貰った覚えがある。何度か色々とやらかして先代に怒られてた記憶があるが……」
「はあ……と言うか理事長! どうして私に相談なく彼を呼んだんですか!? 来ると分かっていたら生徒達の目につかない様に配慮したんですよ!」
「謝罪! た、たづなよ! それに関しては済まなかったと思っている。しかし……まあ、その……ああいう者もいると言う事を知る良い機会なのではないか……?」
「理事長〜!!」
先程までの威厳はどこに行ったのか。たづなの冷たい笑顔に晒された理事長は完全に白旗を上げていた。
そんな馬鹿をやっている横からコツコツと鳴る足音。ただそれだけで二人の緊張の糸は再度ピンと張り詰める。
「お取り込み中の所失礼するぜ」
消えたと思いきや、一分も立たずして戻ってきた彼。微妙に言いづらそうな雰囲気で、左手にある物を見せつけて口を開く。
「あ〜……吸えるとこあるか?」
その手に握られた物は葉巻。残念ながら、煙の類は肺機能の低下につながるため、この学園ではご法度。
張り詰めていた気が抜けるような感覚を味わいながら、理事長は学内禁煙という残酷な一言を突き付けたのだった。
その日、いつも通りグラウンドでトレーニングをすっぽかして蝶々を追いかけるハルウララ。このサボりに近い行為もスカウトされない大きな理由の一つなのだが、本人は全く気にしていない。しかし、トレーナーがいなければレースに出れないと言う事は知っていた為、既にトレーナーに引っこ抜かれた友人達をちょっぴり羨ましく思っていた。
今日もまた、他のウマ娘達が次々とスカウトされていくのを横目に、また別の色を持つ蝶々へ標的を変え、走り回っていた。
空を見上げて右へ左へとフラフラと揺れ動く蝶々を追いかけて、気がつけば学園の門の前。そこで、彼女の視線は蝶々から外れた。どうやら、より珍しい何かを見つけたようだ。
視線の先には、門のすぐ外に立つ男。ただの変哲も無い者であれば興味など無かっただろう。しかし、彼の出す異様な雰囲気は彼女を惹きつけるには十分だったようだ。
「ねぇねぇ、おじさん! ここで何してるの?」
「あ? あ〜……気にすんな。ただの休憩だ」
その男の右手には茶色の棒状の何か。色々と疎い所もある彼女もこれが大体何を示しているのかはわかっていた。
「あ〜! おじさん、学校は"きんえん"なんだよ!」
「ったく……教育が良く行き届いてるこった」
男は隣にたった一歩分だけずれると再び煙の香りを楽しみ始める。当然、彼女は再び同じ事を男に言うが、彼は返答と共に空いた手で下を指した。
「悪いなお嬢ちゃん。学校の敷地はそこまでだ」
「……? ここも学校だよ?」
ハルウララのその言葉を聞き、男は特大のため息と共に頭を抱えた。そして、全て察した事だろう。説明しても無駄だと。
仕方なく彼は葉巻の火を消し、代わりと言わんばかりに空いた右手に特大の鉄槌を握ったのだった。
「のんびり葉巻も吸えねえとはな……もう用はねえだろ? さっさと戻りな優等生」
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