夏合宿 しゅぎょー!
夏合宿も中盤に差し掛かるであろう時期。元気な太陽とピンクの悪魔から逃げるかの様に、ハイゼンベルクは海岸に停めてあるトラックの荷台へと入り込む。
箱型のそれの中は、何と彼の手がこれでもかと加えられた快適空間。快適なソファにテーブル、しっかりと効く冷房、IHのキッチン、おまけにマッサージチェアまで付いている。キャンピングカーもこれにはびっくりであろう。
だが、ちょっとした悩みとしては余計な客が良く入り込む。快適が大好きなサボり魔が……
「おい……何でテメエが居るんだ?」
「いや〜、今日も結構暑いじゃないですか? 熱中症なんかになったら大変だからね〜。ウララのトレーナーさんも分かるでしょ?」
いつの間にかソファに座り、売店で買ったかき氷を食べているのはセイウンスカイだった。この避暑地は涼しむのにも、自身のトレーナーから姿を眩ませるにも丁度良いのかもしれない。
「ほう、じゃあテメエ専用の冷凍庫でも作ってぶち込んでやろうか? そうすりゃ熱中症問題は解決だ」
「あ〜……それはご遠慮願います」
そんな事されたらどうなるのか。それは嫌でも分かる。今、目の前にあるシロップの掛かった美味しい食べ物と自身の分類が同じになってしまう。
ネジの吹き飛んだこの男の事だ。下手をすればやりかねない。
「まあまあ、例のアレの事は黙っておきますから! 大目に見てくれると嬉しいかな〜?」
ちょこっと悪い笑みを浮かべる彼女の言葉に、彼は大きな溜息を吐く。
彼女の言うアレというのは彼の愛用しているあの茶色の棒の事だ。もし、またあの堅物副会長に押収されたら、これで何回目だと煩い小言を頂けるだろう。
だが、今回ばかりは彼は何も言えない。
禁煙である場所で吸っている方が悪いのだ。
「……ったくよ、次バレたらアイツらに家宅捜索されちまう。もし、アレが全て回収されたらここに入り浸る意味も無え。閉店だな」
複雑な表情と共に彼の視線は床へと向く。そこにあるのは所々に小さい穴の開けられたただの金属の板だけだ。
「またまた〜、どうせバレない為のあんな物やこんな物があるんでしょ? セイちゃんは大体分かってますから!」
確かに、床面に使われている金属板は普通のものだ。だが、この快適空間に施された小細工は中々手が込んでいる。
「ヘッ、勘が良いじゃねえか!」
彼はニヤリとした笑みを浮かべて、部屋の換気システムの出力を最大にした。途端に室内であるのに風が上から下へ吹き付ける。
そう、この部屋の換気扇はこの床全体。床にある沢山の穴を素通りした空気は、道中のフィルターで葉巻の匂いやら有害物質やらを全てキャッチされた後、外へと排出される仕組みとなっている。
微細な不純物すら許されない製造工場などで利用されるこの換気法。ただの葉巻の匂い対策に使うのは、些か過剰である事には間違いないだろう。
「一週間で作った割には悪くねえ出来栄えだろ?」
彼が初めて色々と押収された後、たった一週間で作ったらしい。きっと、居住スペースの奥にでも使える資材が積まれていたのだろう。
彼は得意気に葉巻を咥え、回収を免れたマッチを構えた。
「えっ!? ここで吸うの? まだ私居るんだけど……」
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