暴露
あの恐ろしい大嵐から数日後、町は色々と悲惨な状況から大体回復していた。特に商店街では未だ看板が無い店もあるが、どこかのウマ娘が段ボールに書いた可愛らしい文字を看板代わりにして図太くやっている。
ハイゼンベルクの工場も色々と被害を受けていた筈なのだが、嵐の次の日にハルウララが出向いた時には、フェンスゲートを潰した大木も、いくつか吹き飛んだ屋根と壁も、被害のあった諸々が綺麗さっぱり片付いていた。
あまりに早すぎるその仕事ぶりに驚いたハルウララが、まるで自分の事のように笑顔で色んな人に自慢していたお陰で、一部の復興作業に半ば強制参加させられる事になったのだが、それはまた別の話である。
そんな中だからか、トレセン学園から受けた依頼はいつもやっているトレーニング器具のメンテナンスでは無く、捨て所に困る大型の金属廃材の回収であった。
グラウンドを使えなくなったせいか、ウマ娘達の作業にも気合が入っており、彼が回収に向かう頃には廃材の山が出来上がっていたそうだ。面倒な事に何度か往復する羽目になり、彼の溜息が尽きる事は無かった。
言われていた量の三倍は文句でも言ってやろうかと携帯を開くと、本日二度目の理事長からのメールが届いていた。
「またかよ」
その堅苦しい文面を見るにとある場所の復興を手伝って欲しいとの事。学園の生徒の手を借りれば一瞬で終わるじゃないかと心の中で悪態を吐くと、彼はトラックを記載されていた住所まで飛ばしたのだった。
到着したのは彼の知らぬ競バ場。後から調べた所、どうやら学園お抱えの場所だったようで、普通のトレーナーであれば知っている筈の場所らしい。きっと、メールに競バ場の名前ではなく住所が書かれていたのは、そういう事なのだろう。良い言い方をすれば"理解されている"が、悪い言い方をすれば"見透かされている"。
だが、今の彼は何も知らぬただの業者。そんな事実に気付いている筈も無く、ただただいつも通りの葉巻と鉄槌の不審者セットを持ち出して、中へと赴いたのだった。
適当に右往左往しながら彼が辿り着いたのは、ウマ娘達が己の全てを振り絞り競うのであろうグラウンド。緑の芝に溢れ、どこか厳粛な空気が広がる場所。
だが、過剰に濡れて使い物にならなくなった土壌と、そこに突き刺さる様々な瓦礫がその空気を一変していた。
「ハイゼンさん!」
目の前の状況をぼんやりと観察していると、良く聞く誰かの声が彼の耳に届く。その方向に目をやると、理事長の有能な秘書がその手を挙げてこちらに呼びかけていた。
「よお」
「おはようございます、今回はお早い到着ですね!」
彼にとって皮肉にしか聞こえないお言葉をたづなから頂くハイゼンベルク。恐らく、本人は特に何かを意識して言った訳ではないだろう。
そして、その言葉に感応するかのように彼女の隣にいた二人も同じように彼に挨拶をした。
「感謝ッ! 急にも関わらず来てくれて助かった!」
「おはよう、やはり君も呼ばれていたんだな」
扇子を広げて意気揚々と礼を述べる理事長。凛々しい立ち姿で朝日を浴びているシンボリルドルフ。生徒の代表と学園の代表である二人もしっかりとここに来ていたようだ。
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