伝説
優秀極まりない科学者が。
規格外の科学で生み出された化物が。
サイコパスな天才メカニックが。
過去に幻想世界で暴れた鋼の魔王が。
そして、完全たるを目指し、神の領域へ踏み込まんとした存在が。
どれだけ策を講じようとも、どれだけ理不尽な力を振るおうとも、止める事が叶わなかった一人の男がいた。
この世界において、それは誰も知らぬただの御伽噺だ。
勝ちを確信した筈のウマ王は、非常に焦っていた。
ギリギリの所で勇者を例の薬品で無力化し、その御一行達にもその洗礼を浴びせて、確実に捕らえた。
その次に、危険そうなあの厳つい男も同様に、ポーションをぶん投げて無力化した筈なのだ。
だが、目に映るその光景は彼女を大いに裏切った。
「な、なんでだ……? ウマ王の攻撃だぞ!? ちょっとぐらい怯めよ!」
風切り音を鳴らす拳、刃物のような蹴り。己の放てる最高峰の一撃をどれだけ並べようと、立ち塞がるその男は倒れない。
ボクシングのジャブのような速度重視の軽い攻撃は何事も無かったかのように防がれ、ストレートのような全力の一撃は拳より前の関節部を抑えられ、その出鼻を挫かれる。
だが、仮にフルパワーのそれを放てたとしても、その天秤がひっくり返る訳では無い。
「今だ!」
伸び切った腕を抱え込まれ、お返しとばかりに放たれる裏拳。地味で映えないその一撃は、それを補って余りある程の威力を有していた。
「いっっってえええ!!? 何なんだオマエ!? 鉄殴る趣味でもあんのかよ!」
頬を痛そうに抑える彼女。本来ならば戯言と流される今の言葉だが、今回に限っては絶対にあり得ないとは言い切れない。
「……そんな趣味は無い」
変な間を置いて返される呟き。何故か躊躇いを含むように感じるその言葉からして、趣味でないが似たような経験があるのかもしれない。
そんな疑い深い言葉を耳に入れつつ、彼女が次に取った行動は反撃を食らった時とは違う、全身全霊での猛進だった。
「こうなったらウマ王流の瞬間移動見せてやるぜ! ぶっ飛ばされて壁貫通して外に落ちても知らねえからな!」
床が割れる程の勢いで踏み込んだ後、彼女の姿は文字通り霞となって消える。傍観者全員が一体何が起こったのか理解が追い付かない中、彼は咄嗟に右肩を後方へと反らした。
そして、乾いた破裂音と共に彼女は姿を現す。
彼の脇腹ギリギリ当たらないその場所へ突き出されたその拳。音すら一バ身差を付けて置いていった筈のそれを見て、彼女は動揺を露わにすると同時に、再度その姿を幻影と変化させる。
速過ぎるあまりに視認出来ないそれを前にして、彼はすぐさま身をかがめ、後方へと足払いを掛けた。
「うおっ!?」
頭上を通り過ぎる剃刀のような蹴りの直後、体を支える唯一の片足へとそれは見事に突き刺さる。
当然、彼女はなす術なく地面に転がった。
「ちくしょー……おい! なんでアタシの攻撃が避けれて、オマエの攻撃が当たるんだよ!」
「悪いが、似たような経験があるんでな」
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