模擬レース?
今日もハルウララはいつも通りハイゼンベルクの工場へと足を運ぶ。珍しい事に、今までそびえ立っていたスクラップの山達がまるで神隠しにあったかのようにその姿を消していた。その代わりに、よく学園で見るようなトラックが白線で作られていた。
普段とは違う様子に思わずワクワクしながら彼の元へ歩みを進めて行く。そして、工場の入り口に手をかけた時、中から面白げな声が聞こえたのだった。
「おい、動くんじゃねえ! プロペラも回すな! 交換できねえだろうが!」
正確には声だけでなく、けたたましいエンジン音もついでに聞こえていた。彼女の中で唯一のお化けの友達の姿を頭に浮かべ、その大きな扉を開け放つ。
「おっはよーっ!! 遊びに来たよー!」
「予想通り来やがったか。テメエのせいで俺の冷蔵庫がパンパンなんだ! さっさとコイツを消費しやがれ!」
彼女の好物であるにんじんジュースがたっぷり入ったペットボトルを冷蔵庫から3本ほど取り出すと乱暴に投げ渡す。受け取るのに失敗して一個だけ落としそうになるが、蓋を口で咥えてなんとかキャッチに成功する。
「わはった! ありあとー!」
「咥えてる暇があったらさっさと飲んどけ!」
「はーいっ!!」
彼女はもはや自分の席と化した入り口近くのテーブルに渡されたそれを全て置く。そして、いつの間にか置かれたストローを一本目のジュースに流れるように刺すと美味しそうに飲み始めた。
「やっぱり何回飲んでも美味しいなー! うっらら〜!」
そのまま、相変わらず何をするのか予想のつかない彼の作業を眺める。彼は例のお化けのプロペラを外すと、また別のプロペラをお化けに装着していた。
「よし、これで良いだろ! 一応言っとくが、もうテメエのプロペラに今までの破壊力はねえ! ただ、前のより軽量化してやったからスピードが出る筈だ!」
彼はそう言いながら、回収したプロペラをそっと作業机の上に置いた。お化けのプロペラはチェーンソーの三枚刃ではなく、見た目だけそれっぽく塗装された硬質プラスチック製へと変わり、その縁にはゴムがしっかりと貼られていた。
新しいプロペラが気に入ったのか、シュツルムは高々にエンジンを唸らせる。その回転力を試すためか、シュツルムは自身の友人に向けて思いっきりプロペラを逆回転させた。
「うわわっ!! すっごい風! シューちゃんは風も起こせるんだね! 扇風機みたーい!」
巻き起こした強風は扇風機のそれとは比較にならず、むしろヘリコプターに近かった。その風は、彼女のピンク色の髪や尻尾を勢いよくなびかせる。耳のカバーが半分取れかかった状態で、彼女はシュツルムの扇風機機能を面白いと喜んでいた。
しかし、彼女の後ろにあった筈の書類や本などは見るも無惨に消え去ったようだ。
「おい……! ったく、テメエら表へ出ろ!」
その光景を見て怒るどころか呆れた彼は、荒々しい口調で彼女らを外へ放り出した。
「室内で試運転するんじゃねえ! 分かったか!」
怒られた彼女の友人は、プロペラの回転数を弱めて、どこかしょぼくれた様な仕草をしていた。
「おい、いつもテメエの遊びに付き合ってるんだ。たまにはこっちの遊びも付き合え」
「ええっ!? 遊んでくれるの?」
「まあ、似たようなもんだ」
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