ハーメルン
日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~
そういうもの 3

未熟な愛は言う、「愛してるよ、君が必要だから」と。成熟した愛は言う、「君が必要だよ、愛してるから」と。
――エーリッヒ・フロム



「……めっちゃ普通のことしかされなかったね。色々覚悟してたのに」
「しないって。妄想と現実の区別は付けてるぞ。それに、そういう願望を持っている私をそのまま受け入れてくれたお前を、『消費』したりしたくないよ」
「別に、もっと性癖ぶつけてくれてもいいんだけど」
「いいのかよ。他にも性癖あるんだけど」
「例えば?」
「――前々から思ってたけど、お前他の川内と比べて、いい尻してるよな」
「……そっちかー」




執務室。
書類仕事を片付けている私と川内を、こっそり覗き込む六駆の4人。

「――ねぇ、司令官と川内さん、何かいつもと様子が違わない?」
雷が、囁くように隣の響に声をかけた。
「まぁ、見てすぐ分かる程度にはね。あれはいよいよ、済ませたのかな?」
「え? 済ませたって何をよ?」

「ふふん、一人前のレディーにはお見通しよ。きっとあの二人……手でも繋いだに違いないわ」

「……暁は可愛いね。嫌いじゃない」
「なによ響、バカにしないでよー!」
ぽかぽかと響を叩き始める暁を後目に、雷は傍らの双子の妹に話しかける。
「響は何を言ってるのかしら。電はわかる? ……電?」
「な、なななななのです」
「ど、どうしたの真っ赤になって!?」
「はわわ、恥ずかしいよぉ……」

……どうでもいいがお前たち、そういう話は聞こえないようにやれよ。
私と川内は顔を見合わせて、思わず苦笑を浮かべる。

まぁ、そんな感じで穏やかな日々が、何日か過ぎていった。
海域攻略は着々と進んでいって、その度ごとに新しい艦娘が増えていった。
まだ見ぬ艦娘との出会いは心躍るもので。
戦力の拡充は提督として喜ぶべきことだし、まだ知らない色々な艦娘の存在をが、純粋に楽しかった。

……だから、うん、正直忘れていた。

「すべて」の男女は星である、という単純過ぎる事実を。




沖ノ島海域で発見された、新たな艦娘の概念核。
明石がMM機関を操作して受肉させてゆくと、その姿が徐々に像を結んでいく。
両サイドにお団子を結った茶色の髪。金色の髪飾りに、揺れるアホ毛が目に入る。
やがて自我を認識した艦娘は、開口一番にこう挨拶してきた。
「英国で生まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」
うん、特徴的な喋り方だな。

けれどもけれども、そんな些細な印象のすべては。
次の瞬間に、……全部ぶっ飛ぶことになった。

「あなたが提督デスネー!」
こちらが声をかけるよりも先、真っ直ぐに彼女は私の胸元に飛び込んできて。
「お会いしたかったデース!」
文字通り押し倒す勢いで飛びつくと、一切のためらいもなく……私の口を、自分の口で塞いだ。

「……!?」

ああ、いきなりキスされたのか。久しぶりだな。
と、ガキでクズで、女にだらしなかった頃の自分が脳裏で冷静に囁く。

――いや、待て待て待て。
「い、いきなり何を!?」

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