ハーメルン
日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~
そういうもの 6

汝の意志することを行え。それが法の全てとなろう。
――アレイスター・クロウリー



「――提督。今の、青葉さんだよね」
入渠施設から戻ってきた川内が、怪訝そうに尋ねてくる。
「……もしかして、今日の出撃の時のこと?」
「ああ、そうだよ」

青葉の行動に違和感を覚えていたこと、そしてそれを尋ねたことを話す。
川内は、神妙な顔でそれを聞いていた。

「提督、言ってること自体は間違ってないけど……」
「間違ってないだろ?」
「うん。でもね、もう少し気を遣ってあげても……ああ、そっか。提督に察しろってのは、無理かもなぁ」

難しい顔をした川内は、不意にこちらに尋ねてきた。

「提督、提督が怒ったのは、危ない目に遭ったのがあたしだったから?」
「……まったく無いとは言わないけど、別にお前じゃなくても同じことだよ」
「そっか。なら、あたしも秘書艦として答えるね」

不意に真面目な表情を浮かべ、

「今日、被害に遭ったのは吹雪だったよね」
「ああ、そうだな」
「じゃあ前世で、吹雪が沈んだのは?」
「そりゃサボ島沖海戦……あっ」

頭の中で、パズルのピースがカチリと嵌まる。

「青葉さん、提督が思うよりずっと繊細な人なんだよ。それこそ、あたしなんかよりね」
前世で三水戦の麾下として可愛がっていた吹雪が大破しても、確かに川内は冷静に指揮を続けていた。
「他人の感情に気付くのが苦手だし、まだまだ経験も足りない提督に言うには、厳しいかもしれないけど。でも、それでも提督はすぐに気付くべきだった。気づいて、正しいことを言うにしろ、もう少し気を遣ってあげるべきだったと思う。……あたしたち艦娘を指揮するって、そういうことだよ?」
「そうか、そうだな……」

川内は私の背中を、言葉で蹴っ飛ばす。
「わかったら、とっとと追いかける! 金剛さんの時、あたしにやった失敗を繰り返すな!」

ああ、うちの秘書艦はなんと頼もしいのだろう。
「――ああ、ありがとな川内!」
私は青葉の姿を求めて、鎮守府を走り始めた。




「青葉……?」

青葉は、港の波止場にいた。
船を繋ぐ際に使う係船柱に腰掛け、所在なげに水面を見ている。

「司令官……」
「なぁ青葉。さっきは言い過ぎた。もうちょっと言い方を考えるべきだったよ」
「いえ……青葉が調子に乗ってたのは、事実ですから」

目を伏せて言う青葉に、私は言葉を返す。
「それだけじゃないだろ?」
「え……?」
「あの時、吹雪が大破して、お前は前世のことを思い出したんじゃないのか?」

サボ島沖海戦。「日本海軍が初めて負けた夜戦」と言われる戦い。
この時、重巡・青葉は敵米艦隊を味方と誤認し、敵味方識別の発光信号を放ってしまう。
これにより青葉は敵の先制攻撃を受けることとなり、その青葉を逃がすため重巡・古鷹と、そして駆逐艦・吹雪が敵艦隊によって撃沈されることとなったのだ。

青葉はしばらく黙って俯いていたが、やがて観念したように首を縦に振った。
「全然状況は違いますけど、それでも……吹雪ちゃんが沈みそうになって。何かしないといけないと、と思ったんです」

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