とある高校
博麗霊夢は捨て子だった。
この学園都市において捨て子と聞けば社会問題の一つである置き去りを思い浮かべる者も多いが、彼女の場合はそうではなく、言葉そのままの意味である。
関東の何処かにある片田舎。山を越えた先にある、小さな集落の近くに放置されていた身元不明の幼子。それが今の霊夢……らしい。
らしいと曖昧な表現なのは彼女自身は当時のことを何一つ覚えておらず、ただ集落の人間からそう教えられたからだけに過ぎない。それ以前に何をしていたのかも両親がどんな顔だったかすらも思い出せないので本当に捨てられたかどうかを確かめる術は持ち合わせていなかった。
何らかのショックによる記憶障害。酷く衰弱していたため病院へ運ばれた霊夢は幾つかの検査の末、担当医師にそう診断された。エピソードの記憶の大半を失っており、唯一どういう訳か自分の名前が“ハクレイ・レイム”であることだけは覚えており、うわ言のように呟いていたそうだ。
地元警察は虐待やネグレクトの果てによる犯行と疑い、集落とその近隣の市町村を中心に捜査を開始したが、結局彼女の親と思わしき人物は見つからず、出生記録を調べても該当する児童は居なかった。
捜査は行き詰まり、やがて打ち切られる。霊夢は施設へと預けられた後、最初に彼女を発見し、保護した養父に引き取られることになった。
こうして縁も所縁も無い山奥の集落で霊夢は幼少期を過ごすことになった。
妻に先立たれた養父は不器用ながらも霊夢のことを孫のように可愛がったが、集落の住民たちの対応は違った。未だに旧い慣習に囚われ、排他的な意識が残っていた彼らは彼女の境遇に同情しながらもあまり関わろうとはしなかった。
加えて、霊夢はこの頃から今と変わらぬ性格であまりにも子供離れしていたため余計気味悪がられ、避けられてしまう。
得体の知れぬ不気味な子。それが多くの者が霊夢へと抱く印象であった。
しかし、とうの霊夢本人はそんなこと露程も気にすることはなかった。最初からそういうものだと認識していたのもそうであるが、別に無視されるといった村八分のような酷いことはされておらず、特に現状に不満がある訳でもなかったからだ。
むしろその立場に納得さえしていた。故に、彼女は甘んじて受け入れ、時々養父の仕事を手伝いながら伸び伸びと育った。
そんな彼女にも転機が訪れる。
ある日、霊夢は近くの山を散策していた。狭い村であるが故に娯楽や遊び場が少なく、時折山菜採りも兼ねて暇潰しに訪れることがあり、今回もそうだった。
しかし、その日はどういう訳か採れる山菜が少なく、彼女はいつもよりも奥へと向かい、そこに古い建造物があるのを見つけた。
廃墟と化した、かろうじて“神社”だったと分かる建物。ずっと前から棄てられ、忘れ去られたのだろうか。そんなものがあるという話を聞いたことがなかった霊夢は首を傾げ、しかし妙な懐かしさを覚える。
──自分はこの場所を知っている。
まるで惹かれるように、何かを予感するように霊夢は廃墟の中へと入り──。
山から帰ってきた彼女は以降、自らを“博麗の巫女”と称するようになった。
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