追跡
「なんだったんだアレ…」
先ほど見た光景を信じられずにいた。
絶対にイったと思った。けっこうなスピードでカーブに入っていく車体は明らかに普通じゃ曲がり切れない。
「あんなん見せられたら忘れられねーよぉ…今度会ったらぜってぇ捕まえてやるしっ」
プロのライダーのような、きれいな姿勢でコーナーを鮮やかにクリアしていく手腕。あのバイク乗りはタダものじゃないぞと勘が告げている。一瞬隣に並んで手を振ってきやがったのが、なおさら憎たらしい。
次こそは先をとってやると少女は意気込んだ。
少女のロードワークも終わろうとしている。あれからしばらく走って日が昇り始め、まわりもそろそろと活動を始めた。通勤で駅に向かうサラリーマンや、部活であろう格好をした学生の登校組など、すれ違う人々の数が多くなってくる。
自分も寮に戻って朝飯をいただかなくては。
この後は自主トレーニングと授業があるし、なによりロードワークをこなしてお腹の虫も声を上げ始めていた。
共通基礎1学年を終えて2学年にはなったが、チームに所属していないウマ娘やトレーナーがついていないウマ娘は、教官と呼ばれる人たちからまとめてトレーニングを指導される。
トレーナーにあぶれているウマ娘はまだまだ多く、あんな皆仲良く同じことをしましょう?なんてトレーニングでは自分の力を磨けるはずがない。そう考えていた少女は自分でメニューを組み、たびたび共通トレーニングをサボっていた。
その分自分で考えたトレーニングはきっちりやる。力を発揮するためにも、朝飯は必ず食べなきゃな。寮の朝飯美味いし。
寮で同室になったクソ真面目なアイツは、また教官のいうことを真面目に聞いてトレーニングするんだろう。みんな揃ったつまらないトレーニングだが。
*****
トレセン学園のはじまりにはまだ少し早いこの時間。正門が開いていないため裏手にある通用門にまわらなければならない。
広い敷地をもつこのトレセン学園は、ウマ娘の寮とトレーナ寮両方を有している。トレーナーはウマ娘寮絶対禁制だったり、逆にウマ娘はトレーナー寮に入るには守衛さんに申請が必要だったりと様々な決まりがあったりする。
校舎やグラウンドを挟んで寮が敷地の真逆にあるのも生活圏を離すためだろう。トレーナー同士で飲みに行ったりすることもあるらしいし。
普段表向きで使われるのは、当然主要道路に面した正門である。しかし正門が開く時間は7:30と少し遅めだ。
トレセン学園は全寮制でありウマ娘ももちろん、トレーナーや職員も皆敷地内にいるのだから、当然正門を早くに開ける必要もない。中には家が近所だったり、一人暮らしをしていて入寮していないウマ娘やトレーナーも少数存在しているが、そういった人たちが早めに登校するときはトレーナー寮に近いこの裏手の通用門を使う。
早朝にロードワークを行うウマ娘たちは、こっそりとこの通用門を通るのが暗黙の了解なのだ。
「今日のロードワーク終わりっと。朝飯朝飯ィ~♪」
なんとなしに少女はトレーナー寮の駐輪場に気を向ける。
自転車などがまばらに停められているその一角、隠れるように端に止められたバイクが目に飛び込んできた。
「えっ!?」
すぐさま駆け寄り目を見開いた。ついさっきロードワーク途中の自分をブチ抜いていったあのネイビーのXRZが鎮座していたのだ。あの憎たらしさを見間違うはずもない。
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