十八.彼らの去りゆくとき
炎柱の煉獄康寿郎が死んだのは新緑の萌える皐月の頃であった。
この知らせを聞いた時に、勝母はひどく不穏な予感がした。
自らの力の及ばぬところで、これまで確かにあった土台のようなものが、ゆっくりと変化していこうとしているような気がした。
煉獄康寿郎は勝母とほぼ同時期に柱になった。
自分よりも八歳年下の勝母にも礼儀正しく、豪快だが篤実な人柄であった。
急遽招集された柱合会議で、次の炎柱について決まった後、勝母は晴れ渡った空を憂鬱に見つめた。
どこまでも澄み切った抜けるような青空―――…。
まるで故人の心を映したかのようだ。
「花柱、どうした?」
ぼんやりと空を見上げる勝母が珍しかったのか、声をかけてきたのは鳴柱・桑島慈悟郎だった。
同じように空を見上げて、きっと亡き人のことを思い出したのだろう。
「清しい男だったな…」
「……誠に」
勝母が静かに頷くと、ふっと痛ましそうな顔になる。
「……ここに来る前に、東洋一と手合わせしておってな」
「珍しいですね、最近では」
「うむ。風柱様が新たな技を開発されるので、東洋一も手伝っているらしい。他流派の技も見て、色々と試行錯誤しているのだろう」
「新たな技…」
勝母は少し驚いた。
風柱である風波見周太郎の具合はあまり良くない。
腹に痼のようなものがあるのか、度々下血していたりする。
勝母も何度となく診察し、薬を処方もしているが、果たして快方の見込みがあるかと聞かれると、首を振るしかなかった。
しかし病気があっても、周太郎の剣技への執着は失われぬらしい。感心に値する。
「やはり…風柱様はただならぬ方でございますね」
「うむ。しかし正直、煉獄が死ぬなどとは思わなかった。あれほどの男であっても敵わぬとは…上弦の鬼は、同じ十二鬼月とはいえ下弦とは次元が違うと考えた方が良かろうな」
「そうですね」
話しながら見たこともない上弦について考えてみる。
この百年近く、柱が下弦の鬼を討伐した例は枚挙に暇がない。
勝母もこれまでに三体近くを滅殺しているが、さほどに手間取った覚えはなかった。
だが、上弦の鬼を討ったという話は、この百年近く記録にない。
むしろ、幾人もの隊士、それに柱が上弦によって殺されてきた。
いずれ…自分も討たれるのかもしれない。
「東洋一が…相当に落胆していた。煉獄とは同期だし、色々と考えることはあろうな」
「…多少は落ち込んでも、いずれ同期の死に発奮するでしょう。そういう男です。そうでなくては、鬼殺隊士などやっていられない」
慈悟郎は苦笑いを浮かべた。
「ふ…厳しいのぉ、花柱」
「鬼に人の情けなど通じませんからね」
「そうだな。ま、今回はとうとう飛鳥馬が霞柱になることを了承したし、柱の人数としては再び揃うことになる。できれば、鬼の牙城に攻め入りたいものだが、肝心の親玉がどこにいるかわからんではな…」
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