ハーメルン
椿の涙<鬼殺隊列伝・五百旗頭勝母ノ帖>
十九.風柱死亡の動揺

 煉獄康寿郎が亡くなった時に感じた不穏な予感が当たったと思ったのは、巨星の死を鎹鴉が伝えてきたときだった。

「風柱様が……?」

 体調が悪いことは知っていても、その死は唐突に思えて、勝母はしばし思考が停止した。

 風柱・風波見(かざはみ)周太郎が亡くなった。

 鬼殺隊最大の危機であった時代を支え、伝説とまで呼ばれた柱。
 温厚でありながら、深く寛い、底知れない巨人。

 死因はどうやら病気の悪化によるものらしい。
 それもまた勝母には不思議であった。
 ここのところは、新たな薬を処方して随分と持ち直していたように思えるのに。

 ついこの間集まったばかりだというのに、また緊急招集がかかって産屋敷邸に駆けつけると、そこに待ち受けていたのは陰鬱な顔の風波見賢太郎だった。

「……なぜお前がいる?」

 険しい顔で問いかけた勝母に、賢太郎は頭を下げた。

「柱でもない身がこの場にいること…僭越な事とは存じております。ただ、此度は父の事をお館様に知らせに参りましたので…」
「わざわざお前が?」

 通常、柱の死はその鎹鴉によってお館様にも知らせられる。
 それが鬼との戦闘であろうが、病死であろうが。

「今回のことではご令息の行動は正解です」

 冷静な口調で言ってきたのは、絲柱の矢島登和だった。

「風柱様の死亡のことを聞くなり、お館様は倒れられました。賢太郎が適切に対処して、我々に鴉を飛ばさなかったら、今、集まることもできなかったはずです」
「お館様の具合は?」

 勝母同様にまだ来て間もないらしい鳴柱・桑島慈悟郎が息も荒く尋ねると、賢太郎の側にいた産屋敷家の執事がかしこまった様子で伝える。

「眞沙子様がついて看病されておりますが…久々に高熱を出されておいでで。よほどに驚かれたのでありましょう。なかなかお目覚めになりません」

 その言葉に霞柱・香取(かとり)飛鳥馬(あすま)は嘆息した。

「無理もなかろう。お館様にとっては父も同然の御方であったのだし」
「ここに直接、お前がお館様に伝えるよう…風柱様が遺言されたのか?」

 勝母はどうにも腑に落ちなかった。
 お館様が長年慕い、頼り切っていた風柱の死に衝撃を受けることはわかるが、倒れると予期してわざわざ言いに来るなど…周到に過ぎる。

「それは…」

 賢太郎は言い淀み、さっと勝母から目を逸らす。
 ますます妙な感じがして勝母が更に問いかける前に、矢島登和が冷たく割り込んだ。

「そんな些末なことはどうでもいいでしょう。今、我々が集まってすべきは、風柱様亡き後、その後継について…次なる風柱の選定です」

 ピクリ、と賢太郎の顔が強張った。

「今更じゃありません? もうそこにいらっしゃるというのに」

 重苦しい雰囲気の中でも、軽い調子で言ったのは、柱の中でも最年少の式柱・御名部(みなべ)一伊(かずい)だった。

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