二十.風の去った後
上空をギャアギャアとけたたましく鳴き騒ぐ鴉の声に、勝母は眉を寄せた。
スイーッと勝母の鎹鴉・槐が近付いていくと、鴉同士何かを伝えたのか、やがて二羽ともに勝母の前に降りてくる。
「キュウゥエンッ! 救援乞ウッ! 篠宮東洋一、重傷ォ!! キュウゥエンッ!」
「東洋一だと…?」
勝母は思わず聞き返した。
この数ヶ月、鬼殺隊を抜け、旅に出たものとばかり思っていたのに、なぜ…?
疑問を膨らませながら、東洋一の鎹鴉の先導で行き着いたのは、大きな岩がゴロゴロと転がった山間の早瀬だった。
鴉が止まった岩にへばりついている人の姿。
ぴょんぴょんと岩の上を跳んで近付いて、勝母は言葉を失った。
蒼白の顔。左足を失い、川に浸かった腕はダラリと力無く、その姿は一瞬死体にしか見えなかった。
生半可な鬼の爪ならば通さない頑丈な隊服は千々に裂け、むき出しになった肌には血がこびりついている。
にも関わらず勝母は東洋一が生きていることがわかった。
完全に意識のない状態であるのに、この男はまだ全集中の呼吸を行っていたのだ。
「……貴様、やはり異常だな」
つぶやいて、勝母は東洋一を担ぎ上げた。
背に負うたものの、どうやっても上背のある東洋一の足を引き摺ってしまう。片足だけだが。
「いつかの逆だな」
言いながら、勝母はなんとなく嬉しかった。
数ヶ月前には、左近次と二人で葬式のような落ち込みようだったというのに。
「なんだかだ言っても…お前の居場所は鬼殺隊なんだろうよ……」
隠達が担架を持ってきてくれるまで、勝母は東洋一をおんぶして山道を歩き続けた。
◆◆◆
「この人にここまでの傷を負わすとは、ただならぬ鬼もいたものですね」
東洋一の左足を勝母が手当していると、いつの間にかやって来ていた左近次が隣で腕を組んで立っていた。
膝上の太腿だけが残った東洋一の左足を見て、眉をひそめる。
「上弦でしょうか…?」
「さぁな…。鬼なのかどうかもわからんが…少なくとも呼吸をやめなかったのであれば、その可能性は高いだろうな」
「それにしても……存外、早くにお戻りでしたね」
毒舌が出るのは、左近次もまた内心で喜んでいるからだろう。
心なしか面の天狗も笑っているような気がする。
「あのまま数年は帰ってこないと思って、送り出したんですが…この分だと早々に取り立てができそうです」
「取り立て?」
「酒代など色々と…貸してますから」
「あきれたな。私もあるぞ。この際だから三年分の利息もつけて支払ってもらおうか…」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク