溢れたモノ
黒い泥に覆われて繭となったことで、深海棲艦と化した艦娘、春雨。繭から孵り、黒い感情に呑み込まれかけていたその時、春雨を保護したという陸上施設型深海棲艦、飛行場姫がそれを抑え込んだ。
今の春雨は、身体は深海棲艦だが心は艦娘という、少し歪な状態で維持されている。飛行場姫が言うには、それ以上おかしくなることはないらしい。
そもそもこうなるにあたって壊れてしまった心はどうにもならなそうではあるが、今のところ飛行場姫はおろか、春雨本人もそこには気付くことが出来ていない。
「少しは落ち着いてきたかしら」
「……はい……ご迷惑おかけしましたぁ……」
「別に。溢れた艦娘ってのは、最初はみんなそんなモンなのよ」
変化後に少し時間を貰ったことで心身共にようやく落ち着いてきた春雨は、改めて飛行場姫の方へと向き直った。ここに来て頻繁に出てくる言葉、『溢れた艦娘』の意味を聞くためである。
「あの……その溢れたっていうのは」
「ああ、そうね、そこから説明しなくちゃいけないわ。でもその前に、そのままで話すのはアンタのためにはならないんじゃないかしらね」
言われて気付く春雨。現在、繭から孵ったばかりであるがために全裸である。この施設が心地よい気候であるためか、寒さも暑さも感じていなかったために春雨自身もこの事実に気付いていなかった。
それに対して、あっと声を上げた春雨だが、その程度で終わってしまっている。壊れた心の弊害が少し垣間見えた瞬間だったため、飛行場姫は少しだけ疑問に思ったものの、今すぐ考えることでもないかとスルー。
むしろ、そんなことよりももっと凄まじい変化があるのだが、春雨自身は意図的にそこから目を背けていた。
「説明の前に、まずはアンタのお色直しからにしようかしら。さっきみたいに、私の言う通りにしなさい。何の疑いもなくやればいい」
「は、はい」
一度出来ているため、飛行場姫の言葉に対してはもう何も疑いはない春雨。上位種かどうかなど関係無しに、既に信頼を勝ち取れているようなものである。
「深海棲艦は、艦娘でいう制服ってのまで含めて艤装なの。艤装は出したいと思った時に構築されるのは艦娘も同じよね?」
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